ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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どんな極寒の海でも感じたことのない強烈な冷気が襲って来た時、
咄嗟に身体が動いていた。
全員が死ぬ、もろともに死ぬと、頭では理解していた。
ただの人間である自分より、精霊の加護を受けた主人のほうが強靭であることも。
だが反射的に、主人をかばおうと。
この命を賭して。
身体の上が、重たい。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、次第に明瞭になっていく視界にとらえたのは、
闇色にけぶる空だった。
指先をぴくりと動かしてから、カデルはようやく気づいた。
生きている。
「……?」
あたりはひどく静かだった。
魔王はどうしたのだろう。
最後の決戦の行方は、
われらマール・デ・ドラゴーンは、コスタールは、世界はどうなったのだ。
「…シャークアイ様!!」
そうだ、主人は、キャプテン・シャークアイはどうなったのだ!
跳ね起きようとした瞬間、それを阻んでいるものが自分の上に重なった人間の身体であり、そしてそれが他ならぬシャークアイであることに気づき、カデルは驚いてその肩に触れた。
血に汚れて絡む黒髪の間から、蒼白の頬が覗いていた。
ぞくりと恐怖が駆け巡る。
伏せられたまま揺れもしない睫。
感情のない眉もまた、微動だにしない。
「そ、総領! 総領様!!」
カデルは必死にシャークアイに呼びかけた。
力を込めて自分の身体を起こし、ぐったりと重たいシャークアイを抱きかかえ、仰向けに寝かせる。
黒い髪が冷たい甲板の上に散った。
水の紋章を施した鎧も傷だらけになっていた。先ほどその肩に手が届いた理由も、肩あての部分がすべて失われていたせいだ。
マントは幾条にも引き裂かれている。
カデルは主人の胸を覆っていた甲冑を外し、凍えたその頬に触れた。
動かない喉に触れ、胸の上に掌を押しつける。
「うそでしょう、総領…っ」
そのとき、触れていた身体の遠くから、
とくり、と揺らぐ音が聞こえた気がした。
とくり、とくりと次第に確たるリズムをもつ。
自分自身の心音ではない、たしかに、あなたの。
「…生きてる! 生きてますね!? キャプテン!! シャークアイ様!!」
「……う………。」
何度も何度も呼びかけるうち、ようやくシャークアイの眉と唇が動き、
喉から、低いうめきが洩れた。
うっすら開かれていく瞼、瞳のわずかな光、その表情の動きが全てカデルの網膜に焼き付いていくかのようだった。
「…カデル。」
名を呼ばれた瞬間、シャークアイを映していたはずの視界が大きく膨らんでぼやけた。
「旦那ぁ!!」
「…われらは一体どうしたのだ。魔王は…?」
ひとたび意識を取り戻したシャークアイは強く、自力で身体を起こした。
シャークアイはすぐにあたりを見渡した。その動作につられ、ようやくカデルも甲板の上に眼をやった。
いつのまにか、そこかしこで船員たちが意識を取り戻し、ざわめきが生まれていた。
「シャークアイ様! カデル様ぁ!!」
数人の船員たちが駆け寄ってくる。カデルはシャークアイの背中を支えた。
「一体わしらはどうしたのです?」
「…オレにも分からん。が、どうやら魔王軍は去ったようだな。とにかくまだ倒れている船員たちを助けよう。おおい皆! けが人を運べ! ボロンゴ! 船室にいる連中も無事か、呼んできてくれ。…なんだ、この空は。」
事態に困惑していた船員たちが、総領の声を受けて何はともあれ指示に従い、のろのろと動き始めた。シャークアイは不審な空を気にしながらも、ほうぼうに集まる海賊たちに次々と声をかけていく。船は随所に破損があるようだったが、シャークアイの態度を見る限り、航海できぬほどではないらしかった。
船全体の様子をざっと確認したシャークアイは再びカデルのいる場所まで戻ってきた。長身は傷つき汚れていたが、その足取りは混乱する船の乗員たちを安心させるに足る落着きをもっていた。
「カデルここがどこだか分からんか。…カデル!」
「へいっ」
まだ甲板の上にへたばっていたカデルは慌てて返事をした。まわりの連中が動き始めているのに、自分ばかりがいつまでも放心したままだったことを悟って反省する。気づけば頬が涙に濡れていた。叱られるものとばかりカデルは思ったが、シャークアイは意外にもどこかはにかむような笑顔を向けた。
「気がつく前、夢の中にいるとき一番最初にお前の心臓の音が聞こえた気がしたよ。カデル。生きていてくれてよかった。」
穏やかな懐かしい声にカデルは堪えきれずまた泣いた。
息のないシャークアイの身体に向かい合ったときの不安と後悔は言い知れない。
記憶が途切れる直前、カデルは主人の命の盾となるべく躍り出たはずだったのに、最後に見たものは襲いかかる氷の刃ではなかった。強い力で背後から肩をつかまれ、引き寄せられて、あのとき視界を埋めたのは、覆い被さる大きな優しい身体だった。
「…最後、おれをかばってくださったのですか。どうして……」
「お前が飛び出してくるからだ。舵取りに死なれてこの船が立ちゆくと思うなよ。」
シャークアイはそれだけ言うと再び身を翻した。忙しいのだ、働かなくてはと思うのに、膝になかなか力が入らない。シャークアイはそんなカデルを咎めるでもなく、肩越しに振り返った。生命の力を湛えた一対の泉。荒れた髪が風になびいている。かつてのように。いつものように。
「視界が悪いがおよその位置を調べてくれ。カデル、まずは最寄りの港に向かおう。」
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
capriccio様
咄嗟に身体が動いていた。
全員が死ぬ、もろともに死ぬと、頭では理解していた。
ただの人間である自分より、精霊の加護を受けた主人のほうが強靭であることも。
だが反射的に、主人をかばおうと。
この命を賭して。
身体の上が、重たい。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、次第に明瞭になっていく視界にとらえたのは、
闇色にけぶる空だった。
指先をぴくりと動かしてから、カデルはようやく気づいた。
生きている。
「……?」
あたりはひどく静かだった。
魔王はどうしたのだろう。
最後の決戦の行方は、
われらマール・デ・ドラゴーンは、コスタールは、世界はどうなったのだ。
「…シャークアイ様!!」
そうだ、主人は、キャプテン・シャークアイはどうなったのだ!
跳ね起きようとした瞬間、それを阻んでいるものが自分の上に重なった人間の身体であり、そしてそれが他ならぬシャークアイであることに気づき、カデルは驚いてその肩に触れた。
血に汚れて絡む黒髪の間から、蒼白の頬が覗いていた。
ぞくりと恐怖が駆け巡る。
伏せられたまま揺れもしない睫。
感情のない眉もまた、微動だにしない。
「そ、総領! 総領様!!」
カデルは必死にシャークアイに呼びかけた。
力を込めて自分の身体を起こし、ぐったりと重たいシャークアイを抱きかかえ、仰向けに寝かせる。
黒い髪が冷たい甲板の上に散った。
水の紋章を施した鎧も傷だらけになっていた。先ほどその肩に手が届いた理由も、肩あての部分がすべて失われていたせいだ。
マントは幾条にも引き裂かれている。
カデルは主人の胸を覆っていた甲冑を外し、凍えたその頬に触れた。
動かない喉に触れ、胸の上に掌を押しつける。
「うそでしょう、総領…っ」
そのとき、触れていた身体の遠くから、
とくり、と揺らぐ音が聞こえた気がした。
とくり、とくりと次第に確たるリズムをもつ。
自分自身の心音ではない、たしかに、あなたの。
「…生きてる! 生きてますね!? キャプテン!! シャークアイ様!!」
「……う………。」
何度も何度も呼びかけるうち、ようやくシャークアイの眉と唇が動き、
喉から、低いうめきが洩れた。
うっすら開かれていく瞼、瞳のわずかな光、その表情の動きが全てカデルの網膜に焼き付いていくかのようだった。
「…カデル。」
名を呼ばれた瞬間、シャークアイを映していたはずの視界が大きく膨らんでぼやけた。
「旦那ぁ!!」
「…われらは一体どうしたのだ。魔王は…?」
ひとたび意識を取り戻したシャークアイは強く、自力で身体を起こした。
シャークアイはすぐにあたりを見渡した。その動作につられ、ようやくカデルも甲板の上に眼をやった。
いつのまにか、そこかしこで船員たちが意識を取り戻し、ざわめきが生まれていた。
「シャークアイ様! カデル様ぁ!!」
数人の船員たちが駆け寄ってくる。カデルはシャークアイの背中を支えた。
「一体わしらはどうしたのです?」
「…オレにも分からん。が、どうやら魔王軍は去ったようだな。とにかくまだ倒れている船員たちを助けよう。おおい皆! けが人を運べ! ボロンゴ! 船室にいる連中も無事か、呼んできてくれ。…なんだ、この空は。」
事態に困惑していた船員たちが、総領の声を受けて何はともあれ指示に従い、のろのろと動き始めた。シャークアイは不審な空を気にしながらも、ほうぼうに集まる海賊たちに次々と声をかけていく。船は随所に破損があるようだったが、シャークアイの態度を見る限り、航海できぬほどではないらしかった。
船全体の様子をざっと確認したシャークアイは再びカデルのいる場所まで戻ってきた。長身は傷つき汚れていたが、その足取りは混乱する船の乗員たちを安心させるに足る落着きをもっていた。
「カデルここがどこだか分からんか。…カデル!」
「へいっ」
まだ甲板の上にへたばっていたカデルは慌てて返事をした。まわりの連中が動き始めているのに、自分ばかりがいつまでも放心したままだったことを悟って反省する。気づけば頬が涙に濡れていた。叱られるものとばかりカデルは思ったが、シャークアイは意外にもどこかはにかむような笑顔を向けた。
「気がつく前、夢の中にいるとき一番最初にお前の心臓の音が聞こえた気がしたよ。カデル。生きていてくれてよかった。」
穏やかな懐かしい声にカデルは堪えきれずまた泣いた。
息のないシャークアイの身体に向かい合ったときの不安と後悔は言い知れない。
記憶が途切れる直前、カデルは主人の命の盾となるべく躍り出たはずだったのに、最後に見たものは襲いかかる氷の刃ではなかった。強い力で背後から肩をつかまれ、引き寄せられて、あのとき視界を埋めたのは、覆い被さる大きな優しい身体だった。
「…最後、おれをかばってくださったのですか。どうして……」
「お前が飛び出してくるからだ。舵取りに死なれてこの船が立ちゆくと思うなよ。」
シャークアイはそれだけ言うと再び身を翻した。忙しいのだ、働かなくてはと思うのに、膝になかなか力が入らない。シャークアイはそんなカデルを咎めるでもなく、肩越しに振り返った。生命の力を湛えた一対の泉。荒れた髪が風になびいている。かつてのように。いつものように。
「視界が悪いがおよその位置を調べてくれ。カデル、まずは最寄りの港に向かおう。」
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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