ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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午後の海。
昼飯を済ませた海賊たちが日陰で午睡する、昼夜を問わず賑やかな船が、この時間だけは少しだけ静かになる。眠る習慣のない者同士が集まってカードをしている。マリベル嬢とガボの姿は甲板にあった。もう一人がいない。
探した先、アルスは労働していないはずなのに、日々の戦いに疲れているのか、机に突っ伏して眠っていた。一歩、二歩、近づいても目覚めない。きっと平和な島に生まれ育ち、警戒の訓練を受けてはいないのだ。
真横まで来てもアルスは起きなかった。すうすうと、安定した優しい呼吸、まだ幼さを残す柔らかなその頬が、アニエスに似ていないか? いつも被っている若草色の頭巾がずれて、伸びかけの黒髪が肩に散っていた。触ってみたい。もう一度よく眠っていることを確かめて、そっと手を伸ばす。指先が宙を過ぎる、頬を掠めたら流石に気付かれてしまいそうだ。野放図な黒髪に少し触った。ごわごわと硬い感触。ああ、若い頃のオレもこんな髪をしていた。
・・・・・・。
長い黒髪を、若い娘に梳かせている。薄い衣を纏い、ソファに身を預け、ゆったりと、リラックスした表情で。
僕が初めてそんなシャークアイの様子を見たときの感想は、とにかく想像もしていなかったから、ぽかんとしたのが最初。男の人がそういう身支度をするっていうのもエスタードでは考えたこともなかったし、そのうえ海賊王シャークアイがそれをしているのは一層ちぐはぐな気がした。そんなことがひとしきり僕の頭を占め、そしてその第一印象が去ると、僕は、きれいだなあ、と思った。きれいだ。水に洗われる長い髪も、そして気楽そうに眼を伏せた顔に浮かぶ、王者の余裕も。もし僕がそんなことをされたとしたら、気障だってマリベルに笑われるだろうし、第一緊張してすごく居心地が悪いことだろう。
「これはアルス殿。」
シャークアイは僕に気付くと別段驚いた様子もなく笑いかけた。うっかりこんな場面に迷い込んだ僕のほうが恥ずかしくなってしまう。鍵のないドアを勝手に開けて回るからだ。シャークアイに付いていた若い娘は軽く、でも丁寧な口調で、「こんにちは、アルス様。」とあいさつして、すぐに仕事に戻った。細い指先がシャークアイの髪を持ち上げている。それは高貴な扇のように広がった。
「船の中を探検ですか?」
「ごめんなさい、勝手に入って…」
「いや、構いませんよ。」
アルス殿の探検好きがわれらの呪いを解いたのですからな。キャプテン・シャークアイはそう言って笑った。そこにカデルさんがやってきて、「おや、アルス様。」とこれまた平気な顔で言った。…いいのかな? いつも大きな鎧に大きなマントをつけて堂々と船を見下ろしている、シャークアイのこんなプライベートの姿、誰でも見ていいものなのかな? それともカデルさんはシャークアイの右腕とまで言われる人だからいいのかな? じゃあ僕は?、と思うと、また妙に気恥しくなった。この人に許されていると考えるのは自惚れだと思う。思うけど、そう考えてしまうのをやめられない。
「おう、カデル。待ったぞ。」
「待ってないでしょう、急いだんだから。持ってきましたさあ、今日はこれが御所望だとか。」
カデルさんは小さな瓶を、シャークアイにではなく娘さんのほうに差し出した。
「これですわ。すみません、カデル様。」
「全く、シャークの旦那はひと使いが荒いんでさ、最近はこのカデルが秘書みたいなざまで」
「信頼しているのだ」
シャークアイが笑った。舵とりが使いっ走りでさあ。カデルさんはそうこぼして娘さんを笑わせていた。娘さんが小瓶の栓を抜くと、僕の立っているところまで、ほのかないいにおいが漂ってきた。
「アロマオイルですわ。メモリアリーフの。」
なんでもすぐ聞きたそうにするからよ、とマリベルがいつも言うけれど、今もそうだったのかな。娘さんは僕を見て、聞きもしないのに親切に瓶の中身を教えてくれた。それからそのオイルで丁寧にシャークアイの髪を梳かした。肩を滑り落ちる黒髪に艶が宿り、きれいだ。これから鎧を着て、マントを羽織り、そうして人々の眼を惹きつけるあの立派な総領の姿になるのだ。世界中の王室や富豪とも渡り合うキャプテン・シャークアイがそうやって出来ているのだということに対する驚きと、今その準備のさなかのシャークアイを見てしまっていることに対する、何だかいけないような気持ちの両方のせいで、僕はどきどきしていた。
「アルス様もなさいますか?」
「えっ、いや、僕は別に…!」
僕は慌てて手を振った。
恥ずかしい。僕はそんなことに慣れてないし、それに、僕の髪はシャークアイとは違って、ほったらかしで中途半端な長さに伸び放題、いつもがさがさしているし…。
「はは、アルス様は男前だから、どこかの王子様みたいになっちまいまさあ」
「だ、だめだよ、僕、ぼさぼさだし…」
「ふーん。アルス様の髪は子供の時分の総領と似てますな?」
カデルさんが急にそんなことを言った。僕は娘さんとカデルさん、二人に見つめられてしまって居心地悪い。その上シャークアイまで僕に視線を向けた。不思議な光を湛えた両目で、じっと僕を観察するように。
「…そうだな。カデルの言うとおりだ。」
しっとりとつややかな口調、そのあとキャプテンはいつものように明るい笑い声をあげたけれど、僕は頬が熱くて困ってしまった。本当に、そうなのかな? 期待してしまう、僕はいつか、憧れの人のようになれるのだろうかと。
帽子からはみ出した髪をつまんでみた。がさがさだったはずの手触りは、知らない間に子供の頃よりはこころなしか柔らかくなっている気がした。僕はもう一度、シャークアイの美しい姿を見た。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
capriccio様
昼飯を済ませた海賊たちが日陰で午睡する、昼夜を問わず賑やかな船が、この時間だけは少しだけ静かになる。眠る習慣のない者同士が集まってカードをしている。マリベル嬢とガボの姿は甲板にあった。もう一人がいない。
探した先、アルスは労働していないはずなのに、日々の戦いに疲れているのか、机に突っ伏して眠っていた。一歩、二歩、近づいても目覚めない。きっと平和な島に生まれ育ち、警戒の訓練を受けてはいないのだ。
真横まで来てもアルスは起きなかった。すうすうと、安定した優しい呼吸、まだ幼さを残す柔らかなその頬が、アニエスに似ていないか? いつも被っている若草色の頭巾がずれて、伸びかけの黒髪が肩に散っていた。触ってみたい。もう一度よく眠っていることを確かめて、そっと手を伸ばす。指先が宙を過ぎる、頬を掠めたら流石に気付かれてしまいそうだ。野放図な黒髪に少し触った。ごわごわと硬い感触。ああ、若い頃のオレもこんな髪をしていた。
・・・・・・。
長い黒髪を、若い娘に梳かせている。薄い衣を纏い、ソファに身を預け、ゆったりと、リラックスした表情で。
僕が初めてそんなシャークアイの様子を見たときの感想は、とにかく想像もしていなかったから、ぽかんとしたのが最初。男の人がそういう身支度をするっていうのもエスタードでは考えたこともなかったし、そのうえ海賊王シャークアイがそれをしているのは一層ちぐはぐな気がした。そんなことがひとしきり僕の頭を占め、そしてその第一印象が去ると、僕は、きれいだなあ、と思った。きれいだ。水に洗われる長い髪も、そして気楽そうに眼を伏せた顔に浮かぶ、王者の余裕も。もし僕がそんなことをされたとしたら、気障だってマリベルに笑われるだろうし、第一緊張してすごく居心地が悪いことだろう。
「これはアルス殿。」
シャークアイは僕に気付くと別段驚いた様子もなく笑いかけた。うっかりこんな場面に迷い込んだ僕のほうが恥ずかしくなってしまう。鍵のないドアを勝手に開けて回るからだ。シャークアイに付いていた若い娘は軽く、でも丁寧な口調で、「こんにちは、アルス様。」とあいさつして、すぐに仕事に戻った。細い指先がシャークアイの髪を持ち上げている。それは高貴な扇のように広がった。
「船の中を探検ですか?」
「ごめんなさい、勝手に入って…」
「いや、構いませんよ。」
アルス殿の探検好きがわれらの呪いを解いたのですからな。キャプテン・シャークアイはそう言って笑った。そこにカデルさんがやってきて、「おや、アルス様。」とこれまた平気な顔で言った。…いいのかな? いつも大きな鎧に大きなマントをつけて堂々と船を見下ろしている、シャークアイのこんなプライベートの姿、誰でも見ていいものなのかな? それともカデルさんはシャークアイの右腕とまで言われる人だからいいのかな? じゃあ僕は?、と思うと、また妙に気恥しくなった。この人に許されていると考えるのは自惚れだと思う。思うけど、そう考えてしまうのをやめられない。
「おう、カデル。待ったぞ。」
「待ってないでしょう、急いだんだから。持ってきましたさあ、今日はこれが御所望だとか。」
カデルさんは小さな瓶を、シャークアイにではなく娘さんのほうに差し出した。
「これですわ。すみません、カデル様。」
「全く、シャークの旦那はひと使いが荒いんでさ、最近はこのカデルが秘書みたいなざまで」
「信頼しているのだ」
シャークアイが笑った。舵とりが使いっ走りでさあ。カデルさんはそうこぼして娘さんを笑わせていた。娘さんが小瓶の栓を抜くと、僕の立っているところまで、ほのかないいにおいが漂ってきた。
「アロマオイルですわ。メモリアリーフの。」
なんでもすぐ聞きたそうにするからよ、とマリベルがいつも言うけれど、今もそうだったのかな。娘さんは僕を見て、聞きもしないのに親切に瓶の中身を教えてくれた。それからそのオイルで丁寧にシャークアイの髪を梳かした。肩を滑り落ちる黒髪に艶が宿り、きれいだ。これから鎧を着て、マントを羽織り、そうして人々の眼を惹きつけるあの立派な総領の姿になるのだ。世界中の王室や富豪とも渡り合うキャプテン・シャークアイがそうやって出来ているのだということに対する驚きと、今その準備のさなかのシャークアイを見てしまっていることに対する、何だかいけないような気持ちの両方のせいで、僕はどきどきしていた。
「アルス様もなさいますか?」
「えっ、いや、僕は別に…!」
僕は慌てて手を振った。
恥ずかしい。僕はそんなことに慣れてないし、それに、僕の髪はシャークアイとは違って、ほったらかしで中途半端な長さに伸び放題、いつもがさがさしているし…。
「はは、アルス様は男前だから、どこかの王子様みたいになっちまいまさあ」
「だ、だめだよ、僕、ぼさぼさだし…」
「ふーん。アルス様の髪は子供の時分の総領と似てますな?」
カデルさんが急にそんなことを言った。僕は娘さんとカデルさん、二人に見つめられてしまって居心地悪い。その上シャークアイまで僕に視線を向けた。不思議な光を湛えた両目で、じっと僕を観察するように。
「…そうだな。カデルの言うとおりだ。」
しっとりとつややかな口調、そのあとキャプテンはいつものように明るい笑い声をあげたけれど、僕は頬が熱くて困ってしまった。本当に、そうなのかな? 期待してしまう、僕はいつか、憧れの人のようになれるのだろうかと。
帽子からはみ出した髪をつまんでみた。がさがさだったはずの手触りは、知らない間に子供の頃よりはこころなしか柔らかくなっている気がした。僕はもう一度、シャークアイの美しい姿を見た。
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プロフィール
HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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