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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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薄暗がりにぼんやりと浮かび上がる、淡色のドレスの女。王は目を細めた。幽霊のようだと思う。女の足音は絨毯に呑まれ、無音のまま近付いてくる姿は、まるで足がないかのようだ。

「あら、王さま!」

小窓から差す明かりに女の姿が照らされた。急な印象の変化に王は一瞬混乱を覚える。若く溌剌とした姿。声は鈴のように明るく、石造りの回廊に反響した。

「ご機嫌麗しゅう。」

王は微笑を作り、女の顔を見つめた。それはまばゆい金髪に取り巻かれ、自らほのかに発光しているように見える。生命の力のある者とはそういうものだ。亡き妃もかつてそうだった。

「ごきげんよう、アニエス。」

王は行く先に何か用ありげな様子を装い、軽い挨拶だけをして、佇む他人の妻の横を通り過ぎた。曲がり角で振り返ると、去っていくドレスの後ろ姿は回廊の奥まった暗がりに再び溶け始めていて、そうして見るとやはり幽霊のようなその姿に、王はもう一度亡き者を重ねた。







「最近、奥方にかまっているかね?」

自らの手でグラスに酒を注ぎながら、王は目を上げぬまま、ふいに話題を変えてそんなことを訊いた。シャークアイは酒を口元に運ぶ手を止め、王を見た。

「何です、急に? アニエスがどうかしましたか?」
「いや、いつも一人で城におられるから。」
「それは…。何かあなたに胸の内の不満を申したのですか?」
「そういうわけではないが、しかし、寂しいのではないかと思ってな。」

王は椅子に深く腰かけ直すと、向かい合って座るシャークアイを眺めた。日々の戦いに慣れた男の身体は、銀色に光る鎧の見事さとあいまって逞しかった。このまま英雄の肖像になりそうな姿だ。

「そう思うなら今すぐオレを帰してくれ。」

恨み言で返され、王は笑った。一見くつろいで見えるが、こうして過ごす時間はシャークアイにとっては息抜きにはなっていないのだろう。妻や船の者と過ごす和やかで気楽な時間こそ、戦闘の疲れを癒すのだ。魔物のうろつく、気の抜けない海から戻ったシャークアイを毎夜遅くまで引きとめてその疲労をさらに深め、その上結果的にアニエスから引き離しているのは、他でもない王自身だった。

「それを言われるとつらいな。」

シャークアイは両肘をテーブルにつき、組んだ両手の上に顎を乗せて笑顔を返した。進まぬチェス盤が二人の間にある。こうして雑談に勝負が紛れることはしばしばあった。

「アニエスのことはご心配なく。お城の暮らしを気に入っていますよ。それに正直なところ、荒れた海より身体にも良いようです。」
「お前は知らないのだ、暮らすとなると陰気な場所だよ。気をつけられよ、長く一人でいると奥方も精神を蝕まれるかもしれん。」
「まさか!」

シャークアイは笑ったが、王は目を逸らさなかった。

「幽霊の出そうな城だろう。」
「なに…?」
「出そうだが、出ないのだよ。出れば良いのになあ。」

シャークアイは横柄な視線に執拗に見据えられて息苦しさを感じた。王ゆえか、相手を慮って視線をずらすという発想がない。

「あれの亡霊は一度として私の前に現れてはくれぬ。」
「………王妃様はあなたに愛され満足して世を去られたのでしょう。」
「やめてくれ。私は寂しいよ。お前たちの仲睦まじい姿を見ていると一層寂しくなる。」

王の両目は一対の昏い洞穴のごとく見えた。こういう時、シャークアイは返す言葉を持たない。ついさきほどまで談笑していたはずの唇もまたその正体を現し、恐るべき闇の入口に変じていた。

死によって家族を失い、どれほど絶望した者がいたとしても、それが船の者であればシャークアイは必ず慰めることが出来た。

――こうべを上げて生きよ。お前の愛する者は精霊に導かれ、魂は神の御許に安らぎを得たのだ。

シャークアイがそう言えば、残された者たちは涙に暮れながらも頷かずにはいなかった。だが王はそうではない。どれほど心を砕いても、底のない器に水を注ぐことと同じで、報いなく、消耗するばかりだった。癒えない傷というものをシャークアイは初めて身近に知った。

マール・デ・ドラゴーンの助力を得たコスタールは復興のために立ち上がり、国土は輝きを取り戻しつつあった。港には貿易船が行き来し、街は活気づき、王もまた謁見の間ではいっときよりも力強く振る舞っていた。そのことを喜ぶ彼の側近たちは、王の心が蝕まれて戻らないことを知らないのだろうか。国の傷は癒えても、王の傷は癒えないことを。

傷口は痛々しく、愛さずにはいられず、そして恐ろしかった。気を抜くとその真暗な虚空に引きずり込まれそうになる。

「…さすがにもう夜も遅いようだ。明日の航海に差し支えますから、失礼して戻ります。」

シャークアイは目を伏せて席を立った。片付かない勝負がテーブルの上に残ったが、すでに深夜も過ぎそうな時刻になっていた。自ら退席しなければ、王はいくらでもシャークアイの眠る時間を奪う。これ以上そばにいて、王のために出来ることはない。いや、これ以上ここにいては危険だ。

「私もそろそろ休もう。引きとめたな。」
「いいえ。」

王は座ったままシャークアイを見上げた。感情のない瞼をしていた。痩せた青白い頬も、優しく触れるべきものを失った虚しい手の甲も、寂しく哀れで、自らは再び呼吸することを拒絶しているくせに、生命に対する凶暴な渇望を孕んでいる。シャークアイは王の前に立ち止まったまま、そのいずれに唇を落としていいのかを迷った。

結局は恐怖に負け、王の前に跪くことをせず、分厚い装束に包まれた肩に片手を置き、身をかがめ少しだけ額を寄せた。何も言えぬまま離れる。間近に躊躇って揺れる濃い生命の匂いを感じ、王は強い酩酊を覚えた。

「おやすみ、シャークアイ。」

シャークアイは一礼して部屋を去った。逃げる獲物の靴音は絨毯に掻き消され、ドアの閉まる音だけが不吉に尾を引いた。王は立ち上がり、鏡に自らの姿を映した。人の絶えた孤独な部屋の中で、大袈裟な衣擦れが耳につく。


幽鬼のようだ。奪い取りたいわけでも苦しめたいわけでもないのに、満たされぬ空虚な胸の内を埋めようとして、魂は友人を追い詰める。自ら望むわけではない。どうすることも出来ないのだ。彷徨える亡霊が、かつて愛したはずの人々を傷つけてしまうように、拭い去れない深い喪失感が、制御の効かぬ、この肉体を動かしている。



――――――――――

コスタール王は、ゲーム中ではしっかりした人に見えるので、
モル元とは違うイメージをもっている人のほうが多いかなーと思います。

モル元は、コスタール王は、マール・デ・ドラゴーンの助けが来て、
シャークアイという友を得たことで、
それまで臣下たちの前でも秘めていたか忘れていた感情が出てしまって
不安定になった一時期があったのではないか、
シャークアイもそれに振り回されて(?)苦労したんじゃないかな、
と思っているのですが、
今回のお話は完全にモル元の妄想でしたね(^^;)
まあ…いつも妄想ですけど…方向性が、ハッピーじゃなくてこういう暗い感じだと、
申し訳なさも募ります…。
こういうのが嫌だった方がいらっしゃったら申し訳ないです。


心優しいがゆえに、
ちょっと困っているシャークアイでした。



お題はこちらのサイト様から頂きました
http://odai.ninja-x.jp/title/index.html



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モル元
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自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

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