ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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コスタール沖決戦の少し前の、シャークアイとアニエス。
長いのでたたみます。
長いのでたたみます。
***
「ミント、どこにいるの? ミント?」
雨上がりのコスタールにアニエスの靴音が鳴った。
知らぬ間に城下の家々からも離れ、もうすぐ船つき場にも着いてしまいそう。
「あら、こんなところにいたのね!」
探していた猫は桟橋の前に座っていた。
「どこに行ってしまったのかと思ったら…。結局、街はずれまで来てしまったわね。」
背中の毛並を撫でると、猫はアニエスに身体を寄せた。
海には巨大な船が聳えている。
「船、帰ってきたんだわ。いつ戻ったのかしら?」
夫シャークアイの統べる船、マール・デ・ドラゴーン。
昨日の夕刻、一隻の連絡船がこの桟橋に着き、「海賊船は翌日まで戻らない」との報せを運んだ。
アニエスは昨夜その話をコスタール王から伝え聞いた。
コスタールの海を警備するマール・デ・ドラゴーンは、朝に出航して行き交う貿易船を護衛し、夜には戻るのが常だ。それなのに、昨日は急に夜の魔物を討伐す ることになったという。王はアニエスに一通の手紙を示した。そこには愛する夫の筆跡で、心配には及ばない、明日には戻る、と書かれていた。
アニエス、心配には及ばない、明日には戻るよ。
優しい文字がそう語っていても、これまで一度もなかった突然の変更や、未明から降りだした雨のせいで、アニエスは船を案じ、深く寝付けぬ一夜を過ごした。
「一晩中、海で戦っていたのよ。大丈夫だったのかしら…」
「…アニエス!」
不意に背後から名を呼ばれて、アニエスは振り返った。まだ遠い視線の先に思いがけずシャークアイの姿を見つけ、アニエスは喜びに頬を染めて立ち上がった。
「あなた!」
桟橋に向かって走ってくるシャークアイを認めて、アニエスの腕の中のミントがニャアンと声を上げた。
「アニエス! 会いたかった! どうしてここに? そんな恰好で港にいると、身体を冷やすよ。」
「ミントちゃんがいなくなってしまったのよ。」
アニエスの返答を聞いて、シャークアイは笑った。
「ミントならアニエスの腕の中にいるじゃないか。ミント、オレにその場所をあけてくれないか?」
シャークアイは慣れた手つきでミントの両脇を持ち上げて抱いた。
この猫はコスタールの者にはもちろん、船の誰にも懐かないが、シャークアイとアニエスにだけは心を許して素直に従った。
「違うのよ。街ではぐれてしまって…探していたら、ここにいたの。」
「珍しいな、ミントがこんなところに来るなんて。」
「あなたが戻ってくるの、待っていたのかもしれないわ。ここに座って海を見ていたのだもの。いつ戻ったの? 怪我はない?」
「たった今。心配いらないと言ったろ、皆元気だ。ほら、皆、降りてきてる。」
アニエスは指さされた方向を仰いだが、雨上がりの港は霧がかっていて人影はよく判別できなかった。シャークアイの姿だけは魔法のようにはっきりと見出されたのに。
シャークアイはミントを地面に降ろし、手を伸ばしてその小さな額や耳の付け根を掻いた。
「ミント。コスタールの港が好きか?」
「ニャー」
「アニエスはコスタールが好きだな。ここに暮らすようになって、前よりも健康になったよ。」
「そんなことないわ。わたし、海が好きだわ。」
少しだけ慌てたように言い返すアニエスの様子がいとしくて、シャークアイは微笑を返した。
「本当は昨日の夜だって、一緒に船に乗っていたかったのよ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ、アニエス。あまり寝ていない顔をしているね。心配をかけてすまなかった。」
「いいえ、でも、どうして急に? 今までこんなこと、なかったのに。」
シャークアイは返事をせず、ミントの喉を爪の先であやした。アニエスも海賊の妻だ、隠し事をするわけではないが、あまり恐ろしいことを伝えて不安にさせたくはない。
「ねえ、あなた、本当にわたしを船に乗せて下さいな。一人でお城にいるのは寂しいの。」
「もう少し、平和になったらね。今はまだ危ない。我慢してくれ。」
海の魔物は日に日に強さを増し、昨日の夜は大軍をなしてマール・デ・ドラゴーンを急襲した。今はまだ対処しきれているものの、その背後に魔王の存在があることは知識ある者たちの一致した見解だった。コスタールは魔物を払いすぎて、悪しき者の怒りを買ったのだ。このままではせっかく復興したコスタールや、近隣大陸の平和が脅かされてしまう。決戦を考えるのであれば魔王軍の出方を待たず、先んじて沖に出て戦闘を仕掛けるべきだ。でなければこの港が、押し寄せた魔物どもに蹂躙されてしまうだろう。
行くか、行かないか。
もう道は決まっていた。行くしかないのだ。避けがたい運命だとシャークアイには分かっていた。欠けた腕の紋章はじわりと熱く、そして冷酷に、シャークアイに進むべき未来を告げていた。課せられた使命のままに海を駆け、存分に戦え。しかしお前は勝利を得られぬだろう、選ばれしエデンの戦士ではないのだから、 と。
魔界の最も凶悪な者に戦いを挑んで、シャークアイは勝てる気がしない。食い止めることは出来ても、無事に戻れはしないだろう。人として最後の瞬間まで一縷の望みを捨てるわけではないが、何度考えてみても、塗り変えようのない宿命というものは存在した。目を逸らさず、それに立ち向かわなければ。
逃げるつもりはない。簡単にやられるつもりもない。大切な船員を最後まで守り抜くという、その決意を固めることはかえって簡単だった。それは天に与えられた使命であり、もはや恐怖はなく、むしろ胸の沸き立つのを感じるくらいだ。心を悩ますのは、どうすれば残された愛する人々が、せめて苦しまず幸福に生きていけるのかということだった。シャークアイはその方法をずっと探していた。こればかりは神や精霊の意図するものではなく、人が人のために考えるべきことがらだった。
「…アニエス、今度一緒に出航したら、どこに行きたい?」
「あら、わたし、どこだってついていきますのよ。でも、そうね…」
何かを求めるように、アニエスがふと彼方の空を見た。
遠いその方角はコスタールの北、この島を見下ろす大灯台の、さらに先だろうか。
世界のどこにアニエスの望む未来があるのだろう。
この肉体を失って、優しい心を、どうやって彼女に残すことが出来るだろう。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
http://odai.ninja-x.jp/title/index.html
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「ミント、どこにいるの? ミント?」
雨上がりのコスタールにアニエスの靴音が鳴った。
知らぬ間に城下の家々からも離れ、もうすぐ船つき場にも着いてしまいそう。
「あら、こんなところにいたのね!」
探していた猫は桟橋の前に座っていた。
「どこに行ってしまったのかと思ったら…。結局、街はずれまで来てしまったわね。」
背中の毛並を撫でると、猫はアニエスに身体を寄せた。
海には巨大な船が聳えている。
「船、帰ってきたんだわ。いつ戻ったのかしら?」
夫シャークアイの統べる船、マール・デ・ドラゴーン。
昨日の夕刻、一隻の連絡船がこの桟橋に着き、「海賊船は翌日まで戻らない」との報せを運んだ。
アニエスは昨夜その話をコスタール王から伝え聞いた。
コスタールの海を警備するマール・デ・ドラゴーンは、朝に出航して行き交う貿易船を護衛し、夜には戻るのが常だ。それなのに、昨日は急に夜の魔物を討伐す ることになったという。王はアニエスに一通の手紙を示した。そこには愛する夫の筆跡で、心配には及ばない、明日には戻る、と書かれていた。
アニエス、心配には及ばない、明日には戻るよ。
優しい文字がそう語っていても、これまで一度もなかった突然の変更や、未明から降りだした雨のせいで、アニエスは船を案じ、深く寝付けぬ一夜を過ごした。
「一晩中、海で戦っていたのよ。大丈夫だったのかしら…」
「…アニエス!」
不意に背後から名を呼ばれて、アニエスは振り返った。まだ遠い視線の先に思いがけずシャークアイの姿を見つけ、アニエスは喜びに頬を染めて立ち上がった。
「あなた!」
桟橋に向かって走ってくるシャークアイを認めて、アニエスの腕の中のミントがニャアンと声を上げた。
「アニエス! 会いたかった! どうしてここに? そんな恰好で港にいると、身体を冷やすよ。」
「ミントちゃんがいなくなってしまったのよ。」
アニエスの返答を聞いて、シャークアイは笑った。
「ミントならアニエスの腕の中にいるじゃないか。ミント、オレにその場所をあけてくれないか?」
シャークアイは慣れた手つきでミントの両脇を持ち上げて抱いた。
この猫はコスタールの者にはもちろん、船の誰にも懐かないが、シャークアイとアニエスにだけは心を許して素直に従った。
「違うのよ。街ではぐれてしまって…探していたら、ここにいたの。」
「珍しいな、ミントがこんなところに来るなんて。」
「あなたが戻ってくるの、待っていたのかもしれないわ。ここに座って海を見ていたのだもの。いつ戻ったの? 怪我はない?」
「たった今。心配いらないと言ったろ、皆元気だ。ほら、皆、降りてきてる。」
アニエスは指さされた方向を仰いだが、雨上がりの港は霧がかっていて人影はよく判別できなかった。シャークアイの姿だけは魔法のようにはっきりと見出されたのに。
シャークアイはミントを地面に降ろし、手を伸ばしてその小さな額や耳の付け根を掻いた。
「ミント。コスタールの港が好きか?」
「ニャー」
「アニエスはコスタールが好きだな。ここに暮らすようになって、前よりも健康になったよ。」
「そんなことないわ。わたし、海が好きだわ。」
少しだけ慌てたように言い返すアニエスの様子がいとしくて、シャークアイは微笑を返した。
「本当は昨日の夜だって、一緒に船に乗っていたかったのよ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ、アニエス。あまり寝ていない顔をしているね。心配をかけてすまなかった。」
「いいえ、でも、どうして急に? 今までこんなこと、なかったのに。」
シャークアイは返事をせず、ミントの喉を爪の先であやした。アニエスも海賊の妻だ、隠し事をするわけではないが、あまり恐ろしいことを伝えて不安にさせたくはない。
「ねえ、あなた、本当にわたしを船に乗せて下さいな。一人でお城にいるのは寂しいの。」
「もう少し、平和になったらね。今はまだ危ない。我慢してくれ。」
海の魔物は日に日に強さを増し、昨日の夜は大軍をなしてマール・デ・ドラゴーンを急襲した。今はまだ対処しきれているものの、その背後に魔王の存在があることは知識ある者たちの一致した見解だった。コスタールは魔物を払いすぎて、悪しき者の怒りを買ったのだ。このままではせっかく復興したコスタールや、近隣大陸の平和が脅かされてしまう。決戦を考えるのであれば魔王軍の出方を待たず、先んじて沖に出て戦闘を仕掛けるべきだ。でなければこの港が、押し寄せた魔物どもに蹂躙されてしまうだろう。
行くか、行かないか。
もう道は決まっていた。行くしかないのだ。避けがたい運命だとシャークアイには分かっていた。欠けた腕の紋章はじわりと熱く、そして冷酷に、シャークアイに進むべき未来を告げていた。課せられた使命のままに海を駆け、存分に戦え。しかしお前は勝利を得られぬだろう、選ばれしエデンの戦士ではないのだから、 と。
魔界の最も凶悪な者に戦いを挑んで、シャークアイは勝てる気がしない。食い止めることは出来ても、無事に戻れはしないだろう。人として最後の瞬間まで一縷の望みを捨てるわけではないが、何度考えてみても、塗り変えようのない宿命というものは存在した。目を逸らさず、それに立ち向かわなければ。
逃げるつもりはない。簡単にやられるつもりもない。大切な船員を最後まで守り抜くという、その決意を固めることはかえって簡単だった。それは天に与えられた使命であり、もはや恐怖はなく、むしろ胸の沸き立つのを感じるくらいだ。心を悩ますのは、どうすれば残された愛する人々が、せめて苦しまず幸福に生きていけるのかということだった。シャークアイはその方法をずっと探していた。こればかりは神や精霊の意図するものではなく、人が人のために考えるべきことがらだった。
「…アニエス、今度一緒に出航したら、どこに行きたい?」
「あら、わたし、どこだってついていきますのよ。でも、そうね…」
何かを求めるように、アニエスがふと彼方の空を見た。
遠いその方角はコスタールの北、この島を見下ろす大灯台の、さらに先だろうか。
世界のどこにアニエスの望む未来があるのだろう。
この肉体を失って、優しい心を、どうやって彼女に残すことが出来るだろう。
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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