ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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6月になりました。
いつものお題小説とは別に、梅雨に寄せてのSSです。
2009年6月 モル元
いつものお題小説とは別に、梅雨に寄せてのSSです。
2009年6月 モル元
滞在中の港町にはもう三日にわたり、しとしと雨が降っていた。
「なんだぁ、この天気は…」
海賊船の男たちは一様に参っていた。けだるく、船室内は蒸し暑く、かと言って甲板に出ていれば妙な肌寒さのせいで海の男らしくもなく風邪を引き込みそうな天気だった。ほとんどの男が雨の街を嫌がり、船に残っていた。気鬱が船中に蔓延し、マール・デ・ドラゴーンそのものが、ぐったりと力なく海上に横たわっているかのようだ。
「このあたりの雨季らしいがなあ、ざっと降ってざっと止むってのが気が楽だよなあ。」
「まったくだ。いつまでもじめじめしやがって、鬱陶しいぜ。荷もしけるし…。」
「部屋ん中もしけってら。」
眼下の男たちのぼやきを聞き取り、シャークアイは苦笑した。帆布で雨を避けた舵の座から、しめった甲板を見下ろす。ここは位置が高いせいで少しは楽だが、髪に絡む湿度は確かに、どうにも鬱陶しかった。隣ではカデルが先ほどから何度もマッチを擦っていた。なかなか煙草がつかないのだ。
「カデル、もう諦めろ。濡らしてしまったものは仕方あるまい。お前も迂闊だったな。」
シャークアイが忠告すると、カデルはついに諦めて煙草の箱を投げた。口には出さなかったが、ちぇっ、と心の中で舌打ちするのがシャークアイにも伝わった。
「つらそうだな、カデル。」
「キャプテンは元気ですなあ。さっきから、何を見ておられるので?」
「港町さ。お前も見てみろ。」
カデルは手渡された双眼鏡を目に当てながら、「こんな雨じゃ、けぶってて何も見えませんさ」とうそぶいた。だるく重たい腕をあげ、主人の見ていた方角にレンズを向けてみる。遠い港町の道をゆっくりと行き交うのは人の姿ではなくて、色とりどりの円い形をした物だった。カデルは驚いて瞬きをした。
「見えるか? 傘だ、綺麗だろう?」
「へえー、こうして見ると飽きねえですな。」
憂鬱な雨の降りやまぬ日々、人々の差す鮮やかな傘は、少しでも心楽しく過ごしたいという想いの表れなのだろうか。眺めているだけでも、気持ちが救われるようだ。いくらか心が軽くなるのをカデルは感じた。
「どうだ、カデル? 陸に降りてみる気になったか?」
「いやあ、そこまでは。」
カデルがまごつくのを見て、シャークアイは明るく笑った。
「わっはっは! われらは水ばかりある世界に住んでいるくせに空から降る水には不慣れだな。不思議なものだ。」
「普段は雨なんか逃げちまいますからなあ。キャプテンは何で平気なんですか?」
「オレは昔、こういう街に降りたことがあるのだ。慣れればやっていけるものさ。傘も買ったよ。今でも船にあるはずだ。」
「本当ですか? …あっ、キャプテン、アルス様たちだ! 戻ってきましたぞ!」
レンズに待ち人をとらえ、カデルは嬉しそうに叫んだ。傘というものがなかなか悪くないことは分かったが、やはり晴天が恋しかった。アルスたちが船に戻って来さえすれば、晴れた乾いた方角に向かって舵を切れるのだ。甲板でも同じ気持ちの海賊たちがアルスの姿を見つけて口々に歓声を上げた。
「ただいま!」
「アルス様ぁ! 待ったましたぜ、今すぐ出航しやしょう!」
「はは、ボロンゴのやつが勝手を言っている。」
シャークアイが笑った。舵から肉眼では、アルスを匿った大きな黒い傘しか見えない。アルスは傘を差したまま、巻き上げ式の桶舟で上がってきた。その隣にガボも一緒に乗っている。マリベルが船室から出てきて、頭巾が濡れるのを気にしながら小走りに二人に近づいた。
「遅いわよ、あんたたち! あら、なあにアルス、だっさい傘ね!」
「中においでよ、マリベル。」
「なによ、あんたと相合傘なんかしないわよ。」
「いいからさ、ほら!」
アルスの手が、マリベルを傘の下に引っ張り込んだ。マリベルは不機嫌そうな顔をしていたが、指さされた頭上を見上げると、「あらっ」と明るい声をあげた。
「すごい! すてき! かわいいじゃない!」
「へえー、洒落た傘ですなあ、アルス様。」
アルスはそこで上の方にいるシャークアイとカデルの姿に気づき、傘を翻して見せた。傘は外見こそ何の変哲もない黒っぽい傘だったが、その内柄はいっぱいに晴れ晴れとした青に塗られていた。その晴天の下に描かれた賑々しい港町の風景を見わけ、シャークアイは可笑しそうに笑いながらアルスに手を振った。
「カデル、カデル、あの傘がこの船にもあるぞ。」
「へえっ? キャプテンが仕入れたのも、同じ傘で?」
「若い頃、雨の港町で、アニエスに買って帰ったのだ。喜んでいたよ。」
「ははは。趣味が似ておられますな。」
カデルはうん、と伸びをした。
「さて、アルス様もいい傘を仕入れられたことだし、そろそろ雨を抜けましょうや、旦那!」
「そうだな。おーい、皆、出航の準備を頼む!」
シャークアイの声を聞いて、甲板が沸き立った。マリベルはアルスから受け取った傘をくるくる回しながら、可愛らしい長靴姿であたりを跳ねるように歩いていた。
よろしければ是非ご感想等をお寄せ下さい。
「なんだぁ、この天気は…」
海賊船の男たちは一様に参っていた。けだるく、船室内は蒸し暑く、かと言って甲板に出ていれば妙な肌寒さのせいで海の男らしくもなく風邪を引き込みそうな天気だった。ほとんどの男が雨の街を嫌がり、船に残っていた。気鬱が船中に蔓延し、マール・デ・ドラゴーンそのものが、ぐったりと力なく海上に横たわっているかのようだ。
「このあたりの雨季らしいがなあ、ざっと降ってざっと止むってのが気が楽だよなあ。」
「まったくだ。いつまでもじめじめしやがって、鬱陶しいぜ。荷もしけるし…。」
「部屋ん中もしけってら。」
眼下の男たちのぼやきを聞き取り、シャークアイは苦笑した。帆布で雨を避けた舵の座から、しめった甲板を見下ろす。ここは位置が高いせいで少しは楽だが、髪に絡む湿度は確かに、どうにも鬱陶しかった。隣ではカデルが先ほどから何度もマッチを擦っていた。なかなか煙草がつかないのだ。
「カデル、もう諦めろ。濡らしてしまったものは仕方あるまい。お前も迂闊だったな。」
シャークアイが忠告すると、カデルはついに諦めて煙草の箱を投げた。口には出さなかったが、ちぇっ、と心の中で舌打ちするのがシャークアイにも伝わった。
「つらそうだな、カデル。」
「キャプテンは元気ですなあ。さっきから、何を見ておられるので?」
「港町さ。お前も見てみろ。」
カデルは手渡された双眼鏡を目に当てながら、「こんな雨じゃ、けぶってて何も見えませんさ」とうそぶいた。だるく重たい腕をあげ、主人の見ていた方角にレンズを向けてみる。遠い港町の道をゆっくりと行き交うのは人の姿ではなくて、色とりどりの円い形をした物だった。カデルは驚いて瞬きをした。
「見えるか? 傘だ、綺麗だろう?」
「へえー、こうして見ると飽きねえですな。」
憂鬱な雨の降りやまぬ日々、人々の差す鮮やかな傘は、少しでも心楽しく過ごしたいという想いの表れなのだろうか。眺めているだけでも、気持ちが救われるようだ。いくらか心が軽くなるのをカデルは感じた。
「どうだ、カデル? 陸に降りてみる気になったか?」
「いやあ、そこまでは。」
カデルがまごつくのを見て、シャークアイは明るく笑った。
「わっはっは! われらは水ばかりある世界に住んでいるくせに空から降る水には不慣れだな。不思議なものだ。」
「普段は雨なんか逃げちまいますからなあ。キャプテンは何で平気なんですか?」
「オレは昔、こういう街に降りたことがあるのだ。慣れればやっていけるものさ。傘も買ったよ。今でも船にあるはずだ。」
「本当ですか? …あっ、キャプテン、アルス様たちだ! 戻ってきましたぞ!」
レンズに待ち人をとらえ、カデルは嬉しそうに叫んだ。傘というものがなかなか悪くないことは分かったが、やはり晴天が恋しかった。アルスたちが船に戻って来さえすれば、晴れた乾いた方角に向かって舵を切れるのだ。甲板でも同じ気持ちの海賊たちがアルスの姿を見つけて口々に歓声を上げた。
「ただいま!」
「アルス様ぁ! 待ったましたぜ、今すぐ出航しやしょう!」
「はは、ボロンゴのやつが勝手を言っている。」
シャークアイが笑った。舵から肉眼では、アルスを匿った大きな黒い傘しか見えない。アルスは傘を差したまま、巻き上げ式の桶舟で上がってきた。その隣にガボも一緒に乗っている。マリベルが船室から出てきて、頭巾が濡れるのを気にしながら小走りに二人に近づいた。
「遅いわよ、あんたたち! あら、なあにアルス、だっさい傘ね!」
「中においでよ、マリベル。」
「なによ、あんたと相合傘なんかしないわよ。」
「いいからさ、ほら!」
アルスの手が、マリベルを傘の下に引っ張り込んだ。マリベルは不機嫌そうな顔をしていたが、指さされた頭上を見上げると、「あらっ」と明るい声をあげた。
「すごい! すてき! かわいいじゃない!」
「へえー、洒落た傘ですなあ、アルス様。」
アルスはそこで上の方にいるシャークアイとカデルの姿に気づき、傘を翻して見せた。傘は外見こそ何の変哲もない黒っぽい傘だったが、その内柄はいっぱいに晴れ晴れとした青に塗られていた。その晴天の下に描かれた賑々しい港町の風景を見わけ、シャークアイは可笑しそうに笑いながらアルスに手を振った。
「カデル、カデル、あの傘がこの船にもあるぞ。」
「へえっ? キャプテンが仕入れたのも、同じ傘で?」
「若い頃、雨の港町で、アニエスに買って帰ったのだ。喜んでいたよ。」
「ははは。趣味が似ておられますな。」
カデルはうん、と伸びをした。
「さて、アルス様もいい傘を仕入れられたことだし、そろそろ雨を抜けましょうや、旦那!」
「そうだな。おーい、皆、出航の準備を頼む!」
シャークアイの声を聞いて、甲板が沸き立った。マリベルはアルスから受け取った傘をくるくる回しながら、可愛らしい長靴姿であたりを跳ねるように歩いていた。
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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