ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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放心しているのか、あるいは思案に暮れているのか、王は窓辺に椅子を寄せて、黙して空を見上げていた。未明から降り続けていた雨はあがり、一面に雲が敷き詰められているような空模様だ。その雲の膜の向こう側に真昼のまばゆい太陽があるせいで、晴れてはいないのに眩しく感じる。
コスタールは王の名を添え、もう幾通もの手紙をマール・デ・ドラゴーンに宛てて送っていた。だが、いずれもなしのつぶてか、一度として返事は来ない。
「王様。マール・デ・ドラゴーンのことをお考えでしょう。」
大臣が声をかけると、王はゆっくり振り返った。妃を亡くした寂しさがそのまま表情に出ている顔をしている。今となってはもはや昔の話ではあるが、彼が妃と幸福そうにしている姿を、大臣は覚えていた。あの頃はコスタールは辺境ながら平和な王国であり、王も、そして大臣自身も若かった。
「あれだけ送って一通も届いていないということはあるまい。やはり、黙殺されたか。」
「いいえ、私の調べましたところでは、シャークアイという男は無礼者ではありません。王族や富豪の招きには、それぞれに少なくとも一度は応じているという確かな噂です。」
「無礼者でないとは、私もそう思うのだが…。」
「返事が来ないのは、何か、あと一押しが足りないのかもしれませんね。」
「一押しか。」
王はため息をついた。
「どうすればいいのだ。貢物をしてやつの気を引けるほど、わが王室は潤ってはいない。何か伝来の物でも差し出すか。」
大臣は考え事をするときの癖で、髭をこすった。貢物という手段は、まだ試していない。魔物に海路を奪われた今のコスタールに経済力はなかったが、王家伝来のものなら、ひどく惜しいが、どうしても差し出せないわけでもなかった。いや、それで王国の平和が購えるのであれば、何の惜しいことがあろう。しかし問題はシャークアイの人柄だ。国の宝を贈ることで誠意を認められるのであればよいが、もし、所詮つまらぬ者と見下されでもしたら。悪いほうに転がれば、伝説の船は貢物に見合うだけの仕事こそするかもしれないが、コスタール王の求めるような救世主にはなろうとしないだろう。
「貢物というのも、考え所ですね。ですが、ともあれ、手紙ばかりでは納得しないのかもしれません。そこで王様、私に考えがあります。」
「何だ。」
王は立ちあがって大臣に向かい合った。大臣は主を見つめ、飄然とした表情を見せた。
「我々の決意を分かってもらうためにも、私が直接、かの船に伺いましょう。」
「な、何を言い出すのだ!」
王は驚き、叱るように叫んだ。予想していた反応に、大臣はわずかに微笑して見せた。
「良い考えだと思いますが? 手紙の文面をお手伝いしたのは私めです、その手紙でシャークアイが応じない。とすれば私にも責任があること。国のため、あなた様のため、大臣として精一杯出来ることをさせて下さい。」
「本気か!? いかん、いかん、第一お前に国をあけられては困るぞ。それにわが国の大切な大臣にそのような危険な…」
「危険ですと?」
大臣の眉がぴくりと動いた。王は困窮して言葉を失う。国の政治を実質的に担うこの大臣は老獪で、言い合いになると大抵負けてしまうのだ。
「何が危険なのです? 道中は兵が守りましょう。それとも、会いに行くことが危険だとおっしゃるのですか? ならばそのような輩に手を借りるべきではありますまい。」
「いや、それはそうなのだが、うむ……。いや、しかしそれは、お前に身をもって確かめに行けと言うことではないか!」
「そういうことでもありますが。大臣として立派なつとめですな。」
「無茶だ。」
「王様。」
大臣のまなざしが、ひた、と王の目を見据えた。そういうことは無礼であると常々は控えている分、いざ目を合わせられると、王はその強い視線に気圧されてしまう。
「行け、と命令を下さい。」
「しかし…、しかし、お前はもともとマール・デ・ドラゴーンに救援を求めることには反対していたではないか。危険な賭けかもしれぬと言ったのはお前だというのに…。」
「だから何です? 王様があの男を信頼なさるというのなら私も信頼することにしたんですよ! そのあと私自身も出来る限り手を尽くし、あの船について調べたつもりです。あとは王国のため、身をもってシャークアイという男を確かめ、そして手紙では伝わらぬ王様のご希望をお伝えしましょう。」
大臣の声は硬い。王はしばらく黙りこみ、それから呟いた。
「……本当に行くのか。」
「あなた様を残して行くことだけが、私には申し訳ないです。」
「…わかった。お前が言い出したら、どうせ私の言うことなど聞かんのだろう。すまないが、頼む。」
王の言葉に、大臣はびしっと敬礼をした。
「はっ。では早速支度してまいります。」
ドアの前で再び敬礼をすると、王は呆れた表情をして大臣に視線を返し、再び椅子に腰かけた。王のその姿に、大臣はわずかな希望の光を見い出さずにはいられない。こんな時だが、頬が緩むようだ。数か月前まで、主人は冷たい部屋にこもり、痩せた両手で顔を覆っていた。外出の供をしても、立ち並ぶ墓の前にうなだれる姿ばかり見てきた。その王が、窓辺に居所を求め、目を上げて空を見上げるようになっただけで、大臣は嬉しかった。
「ご期待下さい、王様。私が戻る時は、コスタール王国と王様のもとに良い知らせをもたらす時ですぞ! それまでは、戻りませぬぞ。」
少しおどけて言うと、王は笑った。雲のヴェールにさえぎられていても、太陽を背負っている王の姿はやはり眩しかった。
「それに、あまりお待たせはしませんぞ。出来る限り急ぎましょう。」
「どうか気をつけて、身の安全を何より優先させてほしい。コスタール王国はお前なしでは困るのだ。」
「もったいないお言葉です。」
準備は大急ぎで整えられ、従者が選ばれ、久しぶりの武装船が、魔物の目を避けてコスタールを発った。光を湛えた曇天を見上げながら、わが王もきっと今、この空を見ているのだろうと大臣は思う。行く先が希望であると信じて、大臣は船室に入った。
――――――――――
コスタール側のお話でした。
経緯は今回はねつ造に近いのですが、
コスタール大臣が直接マール・デ・ドラゴーンに乗り込んで訴えたのは本当です。
お題はこちらのサイト様から頂きました
http://odai.ninja-x.jp/title/index.html
励みになります。
よろしければご感想やご意見等も、お寄せ下さい。
コスタールは王の名を添え、もう幾通もの手紙をマール・デ・ドラゴーンに宛てて送っていた。だが、いずれもなしのつぶてか、一度として返事は来ない。
「王様。マール・デ・ドラゴーンのことをお考えでしょう。」
大臣が声をかけると、王はゆっくり振り返った。妃を亡くした寂しさがそのまま表情に出ている顔をしている。今となってはもはや昔の話ではあるが、彼が妃と幸福そうにしている姿を、大臣は覚えていた。あの頃はコスタールは辺境ながら平和な王国であり、王も、そして大臣自身も若かった。
「あれだけ送って一通も届いていないということはあるまい。やはり、黙殺されたか。」
「いいえ、私の調べましたところでは、シャークアイという男は無礼者ではありません。王族や富豪の招きには、それぞれに少なくとも一度は応じているという確かな噂です。」
「無礼者でないとは、私もそう思うのだが…。」
「返事が来ないのは、何か、あと一押しが足りないのかもしれませんね。」
「一押しか。」
王はため息をついた。
「どうすればいいのだ。貢物をしてやつの気を引けるほど、わが王室は潤ってはいない。何か伝来の物でも差し出すか。」
大臣は考え事をするときの癖で、髭をこすった。貢物という手段は、まだ試していない。魔物に海路を奪われた今のコスタールに経済力はなかったが、王家伝来のものなら、ひどく惜しいが、どうしても差し出せないわけでもなかった。いや、それで王国の平和が購えるのであれば、何の惜しいことがあろう。しかし問題はシャークアイの人柄だ。国の宝を贈ることで誠意を認められるのであればよいが、もし、所詮つまらぬ者と見下されでもしたら。悪いほうに転がれば、伝説の船は貢物に見合うだけの仕事こそするかもしれないが、コスタール王の求めるような救世主にはなろうとしないだろう。
「貢物というのも、考え所ですね。ですが、ともあれ、手紙ばかりでは納得しないのかもしれません。そこで王様、私に考えがあります。」
「何だ。」
王は立ちあがって大臣に向かい合った。大臣は主を見つめ、飄然とした表情を見せた。
「我々の決意を分かってもらうためにも、私が直接、かの船に伺いましょう。」
「な、何を言い出すのだ!」
王は驚き、叱るように叫んだ。予想していた反応に、大臣はわずかに微笑して見せた。
「良い考えだと思いますが? 手紙の文面をお手伝いしたのは私めです、その手紙でシャークアイが応じない。とすれば私にも責任があること。国のため、あなた様のため、大臣として精一杯出来ることをさせて下さい。」
「本気か!? いかん、いかん、第一お前に国をあけられては困るぞ。それにわが国の大切な大臣にそのような危険な…」
「危険ですと?」
大臣の眉がぴくりと動いた。王は困窮して言葉を失う。国の政治を実質的に担うこの大臣は老獪で、言い合いになると大抵負けてしまうのだ。
「何が危険なのです? 道中は兵が守りましょう。それとも、会いに行くことが危険だとおっしゃるのですか? ならばそのような輩に手を借りるべきではありますまい。」
「いや、それはそうなのだが、うむ……。いや、しかしそれは、お前に身をもって確かめに行けと言うことではないか!」
「そういうことでもありますが。大臣として立派なつとめですな。」
「無茶だ。」
「王様。」
大臣のまなざしが、ひた、と王の目を見据えた。そういうことは無礼であると常々は控えている分、いざ目を合わせられると、王はその強い視線に気圧されてしまう。
「行け、と命令を下さい。」
「しかし…、しかし、お前はもともとマール・デ・ドラゴーンに救援を求めることには反対していたではないか。危険な賭けかもしれぬと言ったのはお前だというのに…。」
「だから何です? 王様があの男を信頼なさるというのなら私も信頼することにしたんですよ! そのあと私自身も出来る限り手を尽くし、あの船について調べたつもりです。あとは王国のため、身をもってシャークアイという男を確かめ、そして手紙では伝わらぬ王様のご希望をお伝えしましょう。」
大臣の声は硬い。王はしばらく黙りこみ、それから呟いた。
「……本当に行くのか。」
「あなた様を残して行くことだけが、私には申し訳ないです。」
「…わかった。お前が言い出したら、どうせ私の言うことなど聞かんのだろう。すまないが、頼む。」
王の言葉に、大臣はびしっと敬礼をした。
「はっ。では早速支度してまいります。」
ドアの前で再び敬礼をすると、王は呆れた表情をして大臣に視線を返し、再び椅子に腰かけた。王のその姿に、大臣はわずかな希望の光を見い出さずにはいられない。こんな時だが、頬が緩むようだ。数か月前まで、主人は冷たい部屋にこもり、痩せた両手で顔を覆っていた。外出の供をしても、立ち並ぶ墓の前にうなだれる姿ばかり見てきた。その王が、窓辺に居所を求め、目を上げて空を見上げるようになっただけで、大臣は嬉しかった。
「ご期待下さい、王様。私が戻る時は、コスタール王国と王様のもとに良い知らせをもたらす時ですぞ! それまでは、戻りませぬぞ。」
少しおどけて言うと、王は笑った。雲のヴェールにさえぎられていても、太陽を背負っている王の姿はやはり眩しかった。
「それに、あまりお待たせはしませんぞ。出来る限り急ぎましょう。」
「どうか気をつけて、身の安全を何より優先させてほしい。コスタール王国はお前なしでは困るのだ。」
「もったいないお言葉です。」
準備は大急ぎで整えられ、従者が選ばれ、久しぶりの武装船が、魔物の目を避けてコスタールを発った。光を湛えた曇天を見上げながら、わが王もきっと今、この空を見ているのだろうと大臣は思う。行く先が希望であると信じて、大臣は船室に入った。
――――――――――
コスタール側のお話でした。
経緯は今回はねつ造に近いのですが、
コスタール大臣が直接マール・デ・ドラゴーンに乗り込んで訴えたのは本当です。
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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