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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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お題小説5「愛するが故」の続きのお話です。

でも、「愛するが故」を読んでいなくても読めます。




* * * * *



港と巨大船の間を行き来していた艀舟の数は減り、陸の者は街へ、海の者は船へと、互いに棲処に戻る姿ばかりが目立つようになってきた。昼の激しい日差しは去り、夕方のオレンジ色の光が世界を包んでいる。毎日繰り返される、もの悲しい落日の時間だ。

日中に比べて風が出てきて、さしたる仕事もなしに甲板に佇んでいると肌寒いくらいだった。船員たちを乗せてやってきた最終の小舟に上司カデルの姿を見つけ、ボロンゴは「寒いんで早く上がってくだせえ」とぼやいた。船長シャークアイは少し離れた場所に立っていて、ボロンゴの声を聞き取って振り返った。シャークアイは今日、一度も上陸していない。ずっと船の上で荷の取引を司って働き、仕事が終わって以降はこうして船上から陸地を眺めていた。

「もう出航しようか。ボロンゴ。」

ボロンゴは驚いて、え?と声を上げた。マール・デ・ドラゴーンの男たちは今の船で全員が戻ったが、客人アルスたちがまだだったからだ。年長のメルビンだけは昼下がりから船室に休んでいたが、他のメンバーは港町に行ったきりだった。

「キャプテン、アルス様たちがまだですぜ?」
「うん。戻らんな。」
「待たないので?」
「待たなくともアルス殿や仲間の方々にはまた会えよう。旅の続く限り必要となればわれらを呼ぶだろうからな。今日中に戻ると約束して船を下りられたわけでもない。別にここで待たなくともよいのだ。」

そう語るシャークアイの口調によどみはなかったが、どこか拗ねたような声の調子だと、長年仕え続けてきたボロンゴは気付いた。

「ふうん。まあそりゃそうですが、いいんですかい?」
「戻るか戻らないか分からぬようなものを待つのは性に合わん。錨を上げろ!」

ほとんど八つ当たりのような声でシャークアイが命じた時、ボロンゴは波間の船の一つに、見慣れたあの若草色の服を見分けた。

「あっ、アルス様ですよ、キャプテン!」

シャークアイが驚いて海を顧みた。長い間ずっと船べりから海を眺めていたのに、待ち人というものは目を離したときふっとそこに来るものだ。

「アルス様ぁー!」

ボロンゴの呼びかけに応じてアルスは手を振った。船側の長い梯子をのぼって来る様子がぎこちない、と思ったら、アルスは小脇に茶色い猫を抱えていた。疲れて怒った顔をしたマリベルがそのあとに続いて甲板に降り立った。

「ボロンゴさん、お待たせ! もー、アルスがのろまなせいで、すっかり遅くなっちゃったわ! 早くお風呂に入りたい!」
「どうぞどうぞ、マリベル様。」

ボロンゴが笑いながらマリベルを案内する。猫はアルスの腕からするりと逃れるとシャークアイの足元まで歩いてきて、革のブーツに身体をこすりつけた。

「アルス殿、この猫は?」
「あのね、港にいたんだけど、僕、マール・デ・ドラゴーンで見た気がして。逃げないから小舟に一緒に乗せて連れてきちゃった。違った?」
「いや、違わない。この船にいた猫だ。」

シャークアイは膝を折り、猫を両手で抱えて持ち上げた。昼間、港へ向かう艀の一つに乗船した猫だった。猫は船に暮らしていたが、誰かの飼い猫ではなかった。そういう猫は自らの意思で船を出て行った以上、もう戻って来なくても仕方がない。シャークアイはそう思っていた。それなのに心の中では、猫の帰船を期待し続けずにはいられなかった。苛立たしい、不本意な話だ、知らぬ間に心を支配されて希望を抱き、 そしてその希望が叶わないとしたら、それが耐えがたいことでなくて何であろう。

「ありがとうございます、アルス殿。この猫はもう戻らないかと思っていましたよ。」

だから諦めかけていたのだ、同じようにこがれる気持ちで旅人たちを待つこととともに。舳先を沖へと巡らせてしまえば、凪いだ心を取り戻した頃、冒険者のアルスたちにはまた世界のどこかで会えても、猫とはこれきりだろうと思っていた。

「よしよし、おまえ、よく戻ってきたな。」
「よかった! 船の猫じゃなかったら悪かったなって思ってたんだ。」

猫はアルスにも懐いていて、屈んだアルスの膝に向かって顔を伸ばした。

「アルス様ぁ、アルス様も風呂に入りますかい?」
「お願いします! うわ、さっきまで明るかったのに、もう真っ暗だなー。ごめんね、シャークアイ、随分遅くなっちゃったね。待った?」

シャークアイは曖昧に微笑を返した。確実に自分の手中におさまるわけではないものに心を奪われることはつらい。そのうえ手に入れたいと望むことすら許されないとあっては、なおさらだった。そんな苦しみにどうやって耐えればいいのか分からない、所有することを生業として生きてきて、それしか心を慰める方法を知らなかったのに。だけどこうして紺色の夜のはじまる船の上で、アルスと猫が戯れているのを見ると、不安がっていた胸の内は、不思議と温かく満たされる気がした。



――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
期間限定様

「愛するが故」はもともとアルスとシャークアイのお話のつもりで書いていたのですが、読んだ感じではそういう印象はなかったというような反応をいただいたので、ちょっとしつこいかなとも思ったのですがそのへんを突っ込んで書いてみました。シャークアイは船も船員も自分の所有物として大切にしている家父長的なところがあるといいなと妄想しています。そしてそんなふうに所有できないアルスを愛することはつらいのかもしれないなーなんて思って書きました。もちろん、モル元の妄想なんですけど…。

漁村育ちのアルスと海賊王のシャークアイではきっと価値観がすごく違うと思います。そういうところを越えてなのか、歩み寄ってなのかはまだ想像がつきませんが、この二人には幸せになってもらいたいなあと思います。

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自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。

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