ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
9プレイ日記もあります。
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神はひとりの子を子供たちを愛するように愛し、子供たちを愛するようにひとりの子を愛する、ただひたすら愛を与える方法で。神がひとりの子からも子供たちからも愛されるのは当然のことだ、それゆえ神には渇望する必要はなく、奪うことを知らない。人は誰も神になりたいなどとは思わないが時には人の業に苦しめられるものだ。我々は何一つ欲望をもたぬ神ではなく愚かしき人間であり、ともすれば愛する人を傷つけずにはいられぬほど貪欲に与え、そして求める宿命にある。
港町では教会に寄った。そのあとまだ買い物があるというアルスたちと別れ、メルビンはひとり船に戻った。年寄りには厳しい昼の日差しを避け、船尾近くの日陰を歩く。巨大な双胴の連なりをぐるりと回り、船側砲の並ぶあたりまで来たとき、そこに蹲るキャプテンの姿に出会った。
暑さにやられたのだろうか。メルビンは彼の姿を見たとき咄嗟にそう案じた。海の最も強き者シャークアイにそんなはずはないのだが、年長のメルビンにしてみれば彼もまた若すぎる青年の一人なのだ。若き主人アルスの小さな仕草一つも丁寧に見守り常に苦痛の色の有無を気にかけるように、腰を屈めたキャプテンの姿に、メルビンは憂鬱の気配を疑った。これは年寄りの癖かもしれない。
「シャークアイ殿。」
呼ばれた男は顔をあげ、メルビンに惜しまぬ笑顔を見せた。健康に澄んだ瞳、白い歯のエナメルの輝き。なんだ、元気そうだ、と思い、メルビンは安堵を覚えた。
「メルビン殿。港にはもう行かれましたか。」
「戻ったところじゃよ。教会だけ行きました。あとは若い皆に任せて。キャプテン殿は何をなさっているのですかな……ああ、猫じゃな。」
シャークアイの手のひらに茶縞の猫が頭をこすりつけ、気持ちよさそうに目を細めていた。
「ほう、かわいいのう。」
毛に覆われた喉を、長い指先があやす。港のにぎわいが遠ざかるような錯覚を覚える、穏やかな沈黙の時間が過ぎた。ふと猫は首を傾げ、船首側の虚空をじっと見つめた。メルビンは同じ方向に目を向けたが、猫が何に気を取られたのかは分からなかった。茶縞猫は四足で立ち、日陰を選ぶように建物のすぐ脇を歩き去って行く。猫特有の、ひたひたと練るようなその足取り。シャークアイは立ち上がって船べりから海を見た。メルビンが目で追いかけていると、猫の姿は陸を目指す貨物船の中にまぎれた。
「こりゃ大変じゃ。陸に行ってしまいますよ。」
シャークアイは笑って答えた。
「今日までは船の猫、明日から陸の猫ということもありますよ。無論、乗りたいのに置いて行ったりはしませんが。」
「逃がしてしまうのですか? 猫好きでおられたかと聞いていましたが。」
「猫は好きですよ。逃がすのはまあ、愛ゆえですな。」
ほがらかで張りのある、いい声をしている。その明朗さと大らかさ、高貴さ、気位、陽を弾く銀色の鎧、真っ青な空と海に対照的な深紅のマント。どれもが鮮やかに映えていた。勇者でないとすれば王者には違いあるまいとメルビンは思う。
「猫はどうも難しいですのう、コツが。」
「猫を愛するのではなく、猫族を愛することです。オレはあまり名前もつけません。」
「出来ますかな、そんなことが。」
「出来るでしょう。人を愛するのではなく、人々を愛するように。」
「上に立つ者のお言葉ですな」
メルビンの返答が意外だったのか、シャークアイは一瞬驚いた顔をした。それから目を伏せ、首を振って少し苦笑した。
「束縛しないことです。そうでなければ奪うことしかできません。特に我々は。」
「なぜです?」
船べりを離れ、去ろうとする王者のまなざしにはわずかな苦悩の色が滲んでいた。風に靡く黒髪の表情に気を取られていては見過ごすほどの。
「なりわいですよ、海賊ですから。」
冗談めかした響きが海風に嬲られて揺れた。逆光の中で笑う人の顔は不可思議だ。口元の微笑だけが相手に伝わり、その目の表情はもう見えない。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「Scorpion」様
昨日に続き、ちょっと長めのお話になりました。
長いかなー、と少し心配しています。
もっと短いほうが読みやすいでしょうか。
お気に召しましたらぽちっとしていただけると励みになります
港町では教会に寄った。そのあとまだ買い物があるというアルスたちと別れ、メルビンはひとり船に戻った。年寄りには厳しい昼の日差しを避け、船尾近くの日陰を歩く。巨大な双胴の連なりをぐるりと回り、船側砲の並ぶあたりまで来たとき、そこに蹲るキャプテンの姿に出会った。
暑さにやられたのだろうか。メルビンは彼の姿を見たとき咄嗟にそう案じた。海の最も強き者シャークアイにそんなはずはないのだが、年長のメルビンにしてみれば彼もまた若すぎる青年の一人なのだ。若き主人アルスの小さな仕草一つも丁寧に見守り常に苦痛の色の有無を気にかけるように、腰を屈めたキャプテンの姿に、メルビンは憂鬱の気配を疑った。これは年寄りの癖かもしれない。
「シャークアイ殿。」
呼ばれた男は顔をあげ、メルビンに惜しまぬ笑顔を見せた。健康に澄んだ瞳、白い歯のエナメルの輝き。なんだ、元気そうだ、と思い、メルビンは安堵を覚えた。
「メルビン殿。港にはもう行かれましたか。」
「戻ったところじゃよ。教会だけ行きました。あとは若い皆に任せて。キャプテン殿は何をなさっているのですかな……ああ、猫じゃな。」
シャークアイの手のひらに茶縞の猫が頭をこすりつけ、気持ちよさそうに目を細めていた。
「ほう、かわいいのう。」
毛に覆われた喉を、長い指先があやす。港のにぎわいが遠ざかるような錯覚を覚える、穏やかな沈黙の時間が過ぎた。ふと猫は首を傾げ、船首側の虚空をじっと見つめた。メルビンは同じ方向に目を向けたが、猫が何に気を取られたのかは分からなかった。茶縞猫は四足で立ち、日陰を選ぶように建物のすぐ脇を歩き去って行く。猫特有の、ひたひたと練るようなその足取り。シャークアイは立ち上がって船べりから海を見た。メルビンが目で追いかけていると、猫の姿は陸を目指す貨物船の中にまぎれた。
「こりゃ大変じゃ。陸に行ってしまいますよ。」
シャークアイは笑って答えた。
「今日までは船の猫、明日から陸の猫ということもありますよ。無論、乗りたいのに置いて行ったりはしませんが。」
「逃がしてしまうのですか? 猫好きでおられたかと聞いていましたが。」
「猫は好きですよ。逃がすのはまあ、愛ゆえですな。」
ほがらかで張りのある、いい声をしている。その明朗さと大らかさ、高貴さ、気位、陽を弾く銀色の鎧、真っ青な空と海に対照的な深紅のマント。どれもが鮮やかに映えていた。勇者でないとすれば王者には違いあるまいとメルビンは思う。
「猫はどうも難しいですのう、コツが。」
「猫を愛するのではなく、猫族を愛することです。オレはあまり名前もつけません。」
「出来ますかな、そんなことが。」
「出来るでしょう。人を愛するのではなく、人々を愛するように。」
「上に立つ者のお言葉ですな」
メルビンの返答が意外だったのか、シャークアイは一瞬驚いた顔をした。それから目を伏せ、首を振って少し苦笑した。
「束縛しないことです。そうでなければ奪うことしかできません。特に我々は。」
「なぜです?」
船べりを離れ、去ろうとする王者のまなざしにはわずかな苦悩の色が滲んでいた。風に靡く黒髪の表情に気を取られていては見過ごすほどの。
「なりわいですよ、海賊ですから。」
冗談めかした響きが海風に嬲られて揺れた。逆光の中で笑う人の顔は不可思議だ。口元の微笑だけが相手に伝わり、その目の表情はもう見えない。
――――――――――
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「Scorpion」様
昨日に続き、ちょっと長めのお話になりました。
長いかなー、と少し心配しています。
もっと短いほうが読みやすいでしょうか。
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モル元
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女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
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