ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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「…騒ぎにしないでくれ。出来るだけ気付かれたくない。」
「わかってまさァ。皆、びっくりしちまいますからな。おいっ、お前、誰にも言うなよっ。」
「はあ……、しかしそのぅ、…本当にシャークアイ様で?」
男の胸の中で会話だけを聞いていたが、そこまで言って若い男が息を呑む気配がした。年上の男に睨まれでもしたらしい。
大人は頼もしい、と、まるで本当の子供のような感想を抱く。
思えば、かつて実際にこの姿だった頃は、そのことを言葉にはしなくても常に心のどこかに感じていたのではなかったか。誰もが直接の自分の部下ではなくて先代の船長の部下であった頃、幼かった自分はあの人の後継者として船じゅうの歳上の海賊たちに見守られて育っていた。
引っ込み思案な子供だったと思う。アルスのように明るくもなく。
気弱で、それでいて気位が高く、気難しく、何よりひどく感じやすかった。
それに加えて立場のこともあり、同年代にはほとんど友人を持つことは出来なかった。だが大人たちはいつでもその厄介な子供に優しかった。
総領を継いでからは皆が自分の部下になり、おれは心のある部分ではひそかに相変わらず彼らを頼りにしていたかもしれないが、同時に彼らを守るべき民として意識するように変わった。幾つになっても実年齢以下に見られていた脆弱な肉体は遅まきながら育ち、頑丈なブーツを履けば、船のほとんどの者がまっすぐ並び立ってもおれを見上げるようになった。受け継いだ水竜の剣をかかげて民の前に立つため、日々鍛錬を始めると、ありがたいことに肉体と精神は期待以上にその努力に応えた。父と仰げる人がもはや存在しない船で、おれの望みは誰よりも強くあって民を守ることだった、かつての総領がそうであったように。
たとえば男たちの集う酒場にふと顔を出して、たった一杯の酒でも酌み交わし、日々のささやかな出来事についての雑談にわずかな時間を費やすだけで、愛しいこの船を満たす安らかな空気が、どんな疲労をも癒してくれた。彼らの存在がどれほど心を支えていたか、言葉に尽くし難いほどだ。だがそれ以上のことを彼らに求めることは決してなかった。それはしてはいけないとわきまえていた。この船の名を名乗る身になって以来、おれは船を率いるにいささか歳は若くても、民たちが安心して心身を委ねられる頼もしい長でありたかったから。
「総領様、これからどうします?」
「…長老のところに行こうと思うのだが……」
「そうですな、それがいいでしょうな。さすが、いいお考えでさ。おともしましょう。」
海賊は不意におれを抱え上げ、船長室のドアを押した。慌てて声を上げると、彼は笑いながら、「目立っちゃいけませんや」と答えた。
彼は鍵のない寝室に入って麻のシーツを手に取ると、小さな身体をすっぽりと包んだ。ふわりと浮く感覚に、自分の体重の軽さを思い知る。
「苦しくねえですか? 平気そうなら、このままお連れしますが。」
まるで穀物の袋のようになったおれは小さく頷いた。もう、自分自身で判断するより彼に任せたほうがいいのだろうと思った。最初にこの部屋で目覚め、一人で出て行こうとした時、こんな妙な事態になって自分よりも他人のほうがずっと頼れるとはまさか思っていなかった。一人ではどうすることもできなかったくせに、呆れた話だ。
「おい、お前はちゃんと両側を守っていろよ!」
若い海賊に命じる声が、麻布越しにくぐもって聞こえた。
「長老さまあー!」
両手が塞がっていても、長老の部屋のドアを蹴り開けるのは失礼だという気持ちがあるのだろう、海賊の男は器用に片足のつま先でノックした。それも十分奇妙な姿だが、無骨な海賊らしい気の遣い方だ。だが長老は高齢で、わざわざ内側からドアを開けに立ち上がらせることは気が引けた。
「降ろしてくれ。」
もぞもぞと身体を動かすと、男は、ちょうど抱えた猫を腕から下ろす時のように、するりとおれを地面に下ろした。布を解かれて数分ぶりに彼の顔を見ると、気恥かしさを感じた。泣いている顔を見られたせいもあるし、第一、幼い姿を人目に晒しているというだけで落ち着かなかった。
「もったいねえですよ、旦那。でかい袋みてえに持ち込んで、長老をビックリさせましょうや。」
「ばか。あまり驚かせると、じいさんが死んでしまうだろ。」
おれの軽口に男は破顔した。男は今度は手でノックし、それからドアを推した。長老は座ったままこちらを見ていたが、海賊の後ろに立つ子供の姿に気付くとさすがに息を飲んだようだった。
「…こりゃ、驚いた。」
どう答えればいいのか分からない。おれは男を追い越し、背中を彼に見守られたまま、部屋の中に進んだ。奥に暖炉はあるが木張りの床は冷えていて、膝から下ばかり寒かった。
「…長老様。どうか落ち着いて話を聞いて下さい。」
自分の意識とは別のところで頭が働いているらしい。意図せず言葉が出たが、その声こそ緊張に上ずり、固かった。長老は驚いてはいたが狼狽しているわけではなく、「うむ、」と頷いておれを見つめた。
「…いや、懐かしいのう。それで、鮫ッ子が、どうしてここにおるのじゃな? でかいほうはどうした?」
「……でかいほうがこうなったのです。目が覚めたらこうなっていました。」
「ほう、ほう……? つまりじゃ…。つまりお前さん、小さいが、記憶なんかはあるんじゃな?」
「記憶はあります。全部覚えている。」
間近まで歩いていくと、長老は白く長い眉の奥からまなざしを注いだ。
「…変わらず、聡明そうなお子じゃのう。」
「…そうでもない。正直、どうすればいいか分からぬ。部下が機敏に動いてくれなければ立ち往生していました。」
「立ち往生して甲板でべそかいておったら、みなが助けてくれるじゃろ。」
長老のからかいの言葉におれは思わずかっとなった。心までが忍耐力のない子供になっているのか、単にこれまでは大人の外見にそういうせっかちさを隠していたのか、自分でも分からない。
「そこまで子供にはなってない!」
「大声を出すと外に聞こえてしまいますぞ。」
「お幾つくらいですかなァ。」
なだめるように、海賊が会話に混じった。長老は改めて目の前の子供をじっと見つめた。
「ふむ…、十は、行ってないじゃろう。」
「十は、行っています!」
十五か、そのくらいだ。子供時代に成長が遅かったことは認めるが、だとしても九と見做されるのは納得がいかなかった。
「……こうして見ると、若ぇのが言っていたとおり、アルス様と似ていますな? 髪がもう少し短ければ、そっくりでさ。」
海賊の男もまたしみじみとおれを眺めて、そんなことを言った。怒りは行き場をなくし、おれは口ごもった。
似てなどいない。
この目で鏡を見つめ、おれはそのことを確かめていた。苦い気持ちで。
初めて出会った時十六歳だったアルスの、幼さを残した頬の輪郭を愛らしいと思ったのは驕りだった。今のおれはあの時の彼と同じくらいの年齢で、それなのにずっと弱くて、頼りなくて、一人では何も出来ない。
ちらりと腕に視線を走らせると、水の紋章は失われたままで、復活などしていなかった。強い期待を抱いていたわけではないが、やはり失望を感じた。姿が過去に戻っても当時の自分を支えていた力は戻らないことに、そして人外の力に頼るしか道を選べない自分自身にも。
長老はおれの動揺に気づいたのか、白髭を揺らして微笑した。
「ま、あまり考えなさるな。見たところ、病気でもなさそうじゃ。海は平和じゃよ、そう困ることもなかろうて。今は久しぶりに幼い姿を楽しまれるがよいじゃろう。」
「…だが呑気もしてはいられぬ。このままだったらどうするのだ。」
言いながら、
どうもしないのかもしれないと思った。
長老の言う通り海は平和で、今すぐに困ることもない。当面の問題は明日に控えた入港くらいで、それだって他の者に任せてもいいし、数日くらい予定を延ばしても構わなかった。一刻の油断も許されぬような戦いの時代ではない。もう、キャプテン・シャークアイは不要なのかもしれない。そのことなら、こんな姿になる前からおれ自身がずっとそう思っていた。神が目覚めたもうた時から、ずっと。
「――お前さん、医者の連中や学者がたを呼んでくれるかの?」
長老はおれの後ろに立つ海賊に声をかけた。海賊は頷き、「行ってみましょう。」と答えた。それから腰をかがめ、心配そうな顔でおれを見た。
「あの、でも、総領様。もしそのままのお姿でも、総領様は立派に船長が務まりまさ。」
ばかなことを言うな。
世迷いごとを吐く海賊を睨もうとしたが、言い終えてすぐ背を伸ばした彼の姿はやけに上のほうにあって視線が届かなかった。また泣きそうだった。
「……すまんな。迷惑を掛ける。」
「何でさ、シャークアイ様が謝ることなんかありませんや! お気を強く持って下せえよ。」
俯くと、涙が零れると思った。顔を上げて暖炉を見つめる。火の近くに立っているうちに足は冷たさから解放されていたが、今度は裸の脛がじりじりと熱く、頬も火照り、目が痛かった。こんなこと、普段なら何でもないのに。子供の身体の、なんと不自由なことか。
「あっしらのことを忘れているわけじゃねえんですし、何も変わりませんさ。」
「…部屋に戻ります。すまないが、もう一度おれを運んでくれないか?」
黒髪の間から男を見ると、彼は優しい笑顔でおれを見ていた。
「お安い御用で。もちろん、そのつもりでさ。」
「シャークよ。待ちなさい。」
来た時にかぶっていたシーツにもう一度包まれようとしていると、長老が呼びとめて手招きした。男が手を止めたので、一人で長老のそばに戻る。歩くたびに足が痛い。
「何です、長老。」
「そう険しい顔をするでない。神様は無茶なことはなさらぬ。のう、シャークアイよ。思えば一族を率いて、おぬしの代はずいぶん苦労をした。これも神様の下すった休暇と思い、ゆっくりするのがいいじゃろう。」
「………。」
長老の言葉に答えることが出来ずに、おれは再び麻袋に姿を変える。
<つづく>
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様
エンディング後のシャークアイは船長でいることに何かしら罪悪感を感じているのではないかという話はこれまでも何度か書いてきて、いつか決着をつけたいなあと思っていましたが、案外、今回のパラレル的な連載でそのへんに何か答えが出るのかも、と思いながら書いています。
この「目が覚めたら」のシリーズはどちらかというと欲望赴くままに妄想を暴走させるべきお題だろうと思いながらお借りしてきたのですが、何だかストイックな感じのものばかり書いています。いずれ「目が覚めたら動物になっていた」のお題で、「耳としっぽだけ猫になるシャークアイ」を書きたいという気もあるのですが…。
「…騒ぎにしないでくれ。出来るだけ気付かれたくない。」
「わかってまさァ。皆、びっくりしちまいますからな。おいっ、お前、誰にも言うなよっ。」
「はあ……、しかしそのぅ、…本当にシャークアイ様で?」
男の胸の中で会話だけを聞いていたが、そこまで言って若い男が息を呑む気配がした。年上の男に睨まれでもしたらしい。
大人は頼もしい、と、まるで本当の子供のような感想を抱く。
思えば、かつて実際にこの姿だった頃は、そのことを言葉にはしなくても常に心のどこかに感じていたのではなかったか。誰もが直接の自分の部下ではなくて先代の船長の部下であった頃、幼かった自分はあの人の後継者として船じゅうの歳上の海賊たちに見守られて育っていた。
引っ込み思案な子供だったと思う。アルスのように明るくもなく。
気弱で、それでいて気位が高く、気難しく、何よりひどく感じやすかった。
それに加えて立場のこともあり、同年代にはほとんど友人を持つことは出来なかった。だが大人たちはいつでもその厄介な子供に優しかった。
総領を継いでからは皆が自分の部下になり、おれは心のある部分ではひそかに相変わらず彼らを頼りにしていたかもしれないが、同時に彼らを守るべき民として意識するように変わった。幾つになっても実年齢以下に見られていた脆弱な肉体は遅まきながら育ち、頑丈なブーツを履けば、船のほとんどの者がまっすぐ並び立ってもおれを見上げるようになった。受け継いだ水竜の剣をかかげて民の前に立つため、日々鍛錬を始めると、ありがたいことに肉体と精神は期待以上にその努力に応えた。父と仰げる人がもはや存在しない船で、おれの望みは誰よりも強くあって民を守ることだった、かつての総領がそうであったように。
たとえば男たちの集う酒場にふと顔を出して、たった一杯の酒でも酌み交わし、日々のささやかな出来事についての雑談にわずかな時間を費やすだけで、愛しいこの船を満たす安らかな空気が、どんな疲労をも癒してくれた。彼らの存在がどれほど心を支えていたか、言葉に尽くし難いほどだ。だがそれ以上のことを彼らに求めることは決してなかった。それはしてはいけないとわきまえていた。この船の名を名乗る身になって以来、おれは船を率いるにいささか歳は若くても、民たちが安心して心身を委ねられる頼もしい長でありたかったから。
「総領様、これからどうします?」
「…長老のところに行こうと思うのだが……」
「そうですな、それがいいでしょうな。さすが、いいお考えでさ。おともしましょう。」
海賊は不意におれを抱え上げ、船長室のドアを押した。慌てて声を上げると、彼は笑いながら、「目立っちゃいけませんや」と答えた。
彼は鍵のない寝室に入って麻のシーツを手に取ると、小さな身体をすっぽりと包んだ。ふわりと浮く感覚に、自分の体重の軽さを思い知る。
「苦しくねえですか? 平気そうなら、このままお連れしますが。」
まるで穀物の袋のようになったおれは小さく頷いた。もう、自分自身で判断するより彼に任せたほうがいいのだろうと思った。最初にこの部屋で目覚め、一人で出て行こうとした時、こんな妙な事態になって自分よりも他人のほうがずっと頼れるとはまさか思っていなかった。一人ではどうすることもできなかったくせに、呆れた話だ。
「おい、お前はちゃんと両側を守っていろよ!」
若い海賊に命じる声が、麻布越しにくぐもって聞こえた。
「長老さまあー!」
両手が塞がっていても、長老の部屋のドアを蹴り開けるのは失礼だという気持ちがあるのだろう、海賊の男は器用に片足のつま先でノックした。それも十分奇妙な姿だが、無骨な海賊らしい気の遣い方だ。だが長老は高齢で、わざわざ内側からドアを開けに立ち上がらせることは気が引けた。
「降ろしてくれ。」
もぞもぞと身体を動かすと、男は、ちょうど抱えた猫を腕から下ろす時のように、するりとおれを地面に下ろした。布を解かれて数分ぶりに彼の顔を見ると、気恥かしさを感じた。泣いている顔を見られたせいもあるし、第一、幼い姿を人目に晒しているというだけで落ち着かなかった。
「もったいねえですよ、旦那。でかい袋みてえに持ち込んで、長老をビックリさせましょうや。」
「ばか。あまり驚かせると、じいさんが死んでしまうだろ。」
おれの軽口に男は破顔した。男は今度は手でノックし、それからドアを推した。長老は座ったままこちらを見ていたが、海賊の後ろに立つ子供の姿に気付くとさすがに息を飲んだようだった。
「…こりゃ、驚いた。」
どう答えればいいのか分からない。おれは男を追い越し、背中を彼に見守られたまま、部屋の中に進んだ。奥に暖炉はあるが木張りの床は冷えていて、膝から下ばかり寒かった。
「…長老様。どうか落ち着いて話を聞いて下さい。」
自分の意識とは別のところで頭が働いているらしい。意図せず言葉が出たが、その声こそ緊張に上ずり、固かった。長老は驚いてはいたが狼狽しているわけではなく、「うむ、」と頷いておれを見つめた。
「…いや、懐かしいのう。それで、鮫ッ子が、どうしてここにおるのじゃな? でかいほうはどうした?」
「……でかいほうがこうなったのです。目が覚めたらこうなっていました。」
「ほう、ほう……? つまりじゃ…。つまりお前さん、小さいが、記憶なんかはあるんじゃな?」
「記憶はあります。全部覚えている。」
間近まで歩いていくと、長老は白く長い眉の奥からまなざしを注いだ。
「…変わらず、聡明そうなお子じゃのう。」
「…そうでもない。正直、どうすればいいか分からぬ。部下が機敏に動いてくれなければ立ち往生していました。」
「立ち往生して甲板でべそかいておったら、みなが助けてくれるじゃろ。」
長老のからかいの言葉におれは思わずかっとなった。心までが忍耐力のない子供になっているのか、単にこれまでは大人の外見にそういうせっかちさを隠していたのか、自分でも分からない。
「そこまで子供にはなってない!」
「大声を出すと外に聞こえてしまいますぞ。」
「お幾つくらいですかなァ。」
なだめるように、海賊が会話に混じった。長老は改めて目の前の子供をじっと見つめた。
「ふむ…、十は、行ってないじゃろう。」
「十は、行っています!」
十五か、そのくらいだ。子供時代に成長が遅かったことは認めるが、だとしても九と見做されるのは納得がいかなかった。
「……こうして見ると、若ぇのが言っていたとおり、アルス様と似ていますな? 髪がもう少し短ければ、そっくりでさ。」
海賊の男もまたしみじみとおれを眺めて、そんなことを言った。怒りは行き場をなくし、おれは口ごもった。
似てなどいない。
この目で鏡を見つめ、おれはそのことを確かめていた。苦い気持ちで。
初めて出会った時十六歳だったアルスの、幼さを残した頬の輪郭を愛らしいと思ったのは驕りだった。今のおれはあの時の彼と同じくらいの年齢で、それなのにずっと弱くて、頼りなくて、一人では何も出来ない。
ちらりと腕に視線を走らせると、水の紋章は失われたままで、復活などしていなかった。強い期待を抱いていたわけではないが、やはり失望を感じた。姿が過去に戻っても当時の自分を支えていた力は戻らないことに、そして人外の力に頼るしか道を選べない自分自身にも。
長老はおれの動揺に気づいたのか、白髭を揺らして微笑した。
「ま、あまり考えなさるな。見たところ、病気でもなさそうじゃ。海は平和じゃよ、そう困ることもなかろうて。今は久しぶりに幼い姿を楽しまれるがよいじゃろう。」
「…だが呑気もしてはいられぬ。このままだったらどうするのだ。」
言いながら、
どうもしないのかもしれないと思った。
長老の言う通り海は平和で、今すぐに困ることもない。当面の問題は明日に控えた入港くらいで、それだって他の者に任せてもいいし、数日くらい予定を延ばしても構わなかった。一刻の油断も許されぬような戦いの時代ではない。もう、キャプテン・シャークアイは不要なのかもしれない。そのことなら、こんな姿になる前からおれ自身がずっとそう思っていた。神が目覚めたもうた時から、ずっと。
「――お前さん、医者の連中や学者がたを呼んでくれるかの?」
長老はおれの後ろに立つ海賊に声をかけた。海賊は頷き、「行ってみましょう。」と答えた。それから腰をかがめ、心配そうな顔でおれを見た。
「あの、でも、総領様。もしそのままのお姿でも、総領様は立派に船長が務まりまさ。」
ばかなことを言うな。
世迷いごとを吐く海賊を睨もうとしたが、言い終えてすぐ背を伸ばした彼の姿はやけに上のほうにあって視線が届かなかった。また泣きそうだった。
「……すまんな。迷惑を掛ける。」
「何でさ、シャークアイ様が謝ることなんかありませんや! お気を強く持って下せえよ。」
俯くと、涙が零れると思った。顔を上げて暖炉を見つめる。火の近くに立っているうちに足は冷たさから解放されていたが、今度は裸の脛がじりじりと熱く、頬も火照り、目が痛かった。こんなこと、普段なら何でもないのに。子供の身体の、なんと不自由なことか。
「あっしらのことを忘れているわけじゃねえんですし、何も変わりませんさ。」
「…部屋に戻ります。すまないが、もう一度おれを運んでくれないか?」
黒髪の間から男を見ると、彼は優しい笑顔でおれを見ていた。
「お安い御用で。もちろん、そのつもりでさ。」
「シャークよ。待ちなさい。」
来た時にかぶっていたシーツにもう一度包まれようとしていると、長老が呼びとめて手招きした。男が手を止めたので、一人で長老のそばに戻る。歩くたびに足が痛い。
「何です、長老。」
「そう険しい顔をするでない。神様は無茶なことはなさらぬ。のう、シャークアイよ。思えば一族を率いて、おぬしの代はずいぶん苦労をした。これも神様の下すった休暇と思い、ゆっくりするのがいいじゃろう。」
「………。」
長老の言葉に答えることが出来ずに、おれは再び麻袋に姿を変える。
<つづく>
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様
エンディング後のシャークアイは船長でいることに何かしら罪悪感を感じているのではないかという話はこれまでも何度か書いてきて、いつか決着をつけたいなあと思っていましたが、案外、今回のパラレル的な連載でそのへんに何か答えが出るのかも、と思いながら書いています。
この「目が覚めたら」のシリーズはどちらかというと欲望赴くままに妄想を暴走させるべきお題だろうと思いながらお借りしてきたのですが、何だかストイックな感じのものばかり書いています。いずれ「目が覚めたら動物になっていた」のお題で、「耳としっぽだけ猫になるシャークアイ」を書きたいという気もあるのですが…。
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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