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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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久しぶりにDQ7小説です。
シャークアイが子供になるお話。

長いので、何度かに分けて連載します。




***



最初に感じた違和感は床との距離だった。
変に近い。ベッドから降りるとき、身体のバランスを崩しかけるほど。
目の高さがおかしい。


視界にぼやける両膝の小ささ。
異変に気付いた時、ふっと血の気の失せる思いがした。

――まさか、こんなことが。

震えながら、鏡に全身を映す。
まさか、と思いつつ頭の隅で予想していた通り、
そこには変な顔をした、髪の長い子供が呆然と立ち尽くしていた。


「……おれ、か…?」


手足はぎこちないが確かに自分の命じた通りに動く。


鏡の中の奇怪な子供は見知らぬ者ではなかった。
忘れかけていた姿だが、若い頃の自分だった。
いや、若いというよりは幼い。とはいえ、これでも十と幾つかにはなっているだろうか。この緊急の時なのに、アルスに似ている、と思った。髪の雰囲気は少し違うが、顔立ちは本当によく似ていた、目を見張るほど。

でも、表情は全然違う。それにアルスのほうが美しいし、強そうだ。世界じゅうを踏破しクリスタルパレスを制した彼の身体は頑丈で、剣と魔法の稀なる力を帯びていた。動作はいつも丁寧で清廉で、智者のそれを思わせたし、まなざしは穏やかに揺るぎなく海を見通していた。その姿はおれの脳裏に焼き付いていて片時も離れることはない。

顔の造りばかりが似ていても、鏡に映る肩は細くいびつだった。かろうじて身体を支える両足も、まるで育ち損ねた枝のようだ。何よりその怯えた表情を見つめていると、どうしようもなく情けない気分になった。おれは幼い自分を恥じた。



さて、何かを告げるような夢を見ていたわけでもなく、ここ数日の毎日も平穏で健康であり、思い返してみても、何の予兆もなかった。唐突になぜこうなったのだろう。考えても何も思い当らなかった。あるいは今この時は、つまらぬ夢の中なのだろうか。ありそうな、そして望ましい話だ。だがもし夢でないとしたら、世界のすべてが過去に戻っているか、自分だけが過去の姿に戻ったのかを、まずは確かめなければいけない。たとえ夢だったとしても、いずれ何かしないではいられないのだが。


誰にも見つかりたくないと思いながら、ぶかぶかの簡素な上着に腰布を締めただけのあり合わせを服に見立てた。靴は、どれも大きすぎて合わない。部屋の中の様子が見慣れたものであることや、何よりも自分の着るべき物がないことに、とすればやはり世界が過去に戻ったのではなく自分の姿だけが過去にかえったのだと知った。必死に考えを巡らせているようで、そんなことにすら今になってようやく確信を抱くとは、どれだけ冷静さを失っているのだろうか。あまり考えるとますます焦って混乱し、自分自身の判断力のなさに苦い思いをするだけだろうから、つとめて今すべきことだけを考えた。喉が渇いていたが、高いところにある水差しに手を伸ばす気にならない。


(…とにかく、長老のところへ行くしか…。)


神が復活し、人の世界に平和が取り戻されて以来、水の民の総領などと、形ばかりの存在にすぎないとおれは思っていた。人は等しく神に守られて安全であり、日々の生活を統べる為政者は、いさえすれば誰でもよいのだ。誰に告白したわけではないが、もう長いこと心の内でそう思って生きてきた。この立場にシャークアイがあえて居続ける理由は、もはやないのだと。

だが、いざこうしてまともな肉体を失うと、この船をどうするつもりなのだ、という不安がどうしても心を焦燥させた。いくら形ばかりと言っても、マール・デ・ドラゴーンほどの巨船の船長が「突然子供になりました」では済まない。後継も得ていないのに。

愚かな話だ、一族の長としてのまともな肉体というのなら神の復活以前からとうに失っているのに、ぐずついて事態を放っておくから、こんなことになるのかもしれない。実際、無責任ではないか。もっと考えておくべきだった、あの時から。あの時、紋章を失くした時から……

(今は、考えてはだめだ)

目を閉じて首を振る。喉が熱く、息は苦しかった。


誰かに見られて問い詰められては困る。とにかく見つからぬよう、一番長生きの長老のところへ行こう。長老ならきっと何か知恵を貸してくれるだろうから。

そう思って静かにドアを押した。だが部屋を出るとすぐ、階段前に控える海賊に見つかってしまった。おれがそこを守るように配置しているのだから当然だ、やはり頭が混乱している。それとも常日頃から、おれの知恵など所詮この程度なのだろうか。


「…あれ?」


海賊は子供の姿を見つめて妙な声を上げた。反対側の階段を守る男が異変に気付いて近寄って来た。

「…なんだぁ? 誰です、こいつは? アルス様かと思ったら違うなァ?」

あとからやってきた男は若く、この姿を見て「変な子供がいる」としか思わなかったのだろう。しかし先に出会ったほうの男は年かさで、しばらくおれを見つめてから、

「…総領様?」

と訊いた。
小さな頃の姿が、記憶にあったのだ。


頷くべきか、と考えるより先に、こうなってからずっとひそかに心細かった気持ちが、他人に自分を見分けてもらえたために緩んでしまった。じわ、と両眼に涙がにじむのをどうすることも出来ない。目覚めてから今まで、胸が締め付けられるような不安を抱えていたことに、ようやく気付いた。不安がることなど許される立場にはないという自戒のせいで、自分の心の状態すら、結局なにも分かっていなかったのだ。慌てて顔をそむけようとしたのに、年長の男は腰をかがめて覗き込んできた。

「あれェ、まァ、大丈夫ですか? あっしらが付いてまさァ、泣かねえで下さい。総領様、いったいどうなさったので?」
「なんだ、総領様って? そのガキはなんだよ。いってえどうしたってんだ?」
「こらっ、お前、無礼するなよ。どういうわけかわからねえが、こいつァ、お可愛い頃のシャークの旦那だよ。あーあ、裸足じゃねえですか、総領様。それじゃ痛えでしょうに。」

身体の大きな男にかばわれるように前に立たれると安心した。それが分かっているのか、年長の海賊は両手でおれの肩を包み、まるで本当の子供を扱うかのように優しく抱き寄せた。

なんだ、こんな時にもおれの部下たちはすごく頼りになるじゃないか、
何をこそこそと長老のところに逃げようとしていたのだ……。

男の胸の中でそんなことを考えていると、だんだんと心が落ち着いてくる気がした。頬を伝う涙が収まるのを感じながら、小さく息を吐く。喉は相変わらずひりついたが、呼吸の苦しさは和らいでいた。

「合う靴がないのだ」

試しに言葉を発してみると、声はむやみに高かったけれど思ったほど震えもせず、確かに相手に伝わったようだった。

「そりゃそうでしょうなあ、急にこんなことになったら、そりゃそうでさ。」

穏やかな男の声が耳元に返った。





<つづく>
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様



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自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。

シャークアイ、かっこいいよね!
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