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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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DQ9小説。
セントシュタイン王のお話です。




***



朝、食堂から玉座に向かう途中、王の目は一人の兵士を探していた。いると期待した階段前にいないのは訓練のためか、それとも今日は持ち場が違うのか、いや、調子でも悪いのだろうか? 王自身は城内の兵一人一人の日課まで把握しているわけではなく、不在の理由は分からなかった。

「兵士長。バートンはどこにいるか、知らぬか?」

しかたなく、謁見の間を守る兵士長に尋ねると、彼はあまたの兵の中でも最も美しい敬礼とともに王の問いかけに答えた。

「はっ、国王さま! バートンでしたら、西の塔に詰めておるはすですが…、何か御用事でしたら、わたくしが。」
「いや、いいのだ。下にいるかと思ったがいなかったので訊いただけだよ。ありがとう。」

兵士長は黒騎士事件の時には負傷して人々を心配させたが、今ではすっかり回復し、以来一層気を引き締めて王室に仕えていた。彼の深い反省、驕らぬ姿勢や揺るぎない忠誠心を日々見るにつけ、兵士長としてこれ以上の者は望めぬと王は思っていた。だからこそ、彼をつまらぬことで煩わせる気にはならなかった。その誠実で勤勉な態度に接していると、彼が誇れるような立派な王でありたいと切に思わずにはいられない。無二の臣下に、強き祖国の王の姿でこたえてやりたいと思うのだ。


大臣たちの話を聞き、客人を迎える、朝の仕事が一通り済むと、王は散歩を装って一人で玉座を離れた。兵士長が教えてくれた北西の螺旋階段を上り、二階に着くとすぐ、探していた兵士バートンの背中があった。王の来訪にも気づかない無防備な後ろ姿に、気楽な怒りのような気分を覚える。

「こりゃ、バートン!」

後ろから大きな声を上げると、バートンはびくっと全身を震え上がらせて振り返った。

「えっ、あっ、国王さまっ? こ、こんなところへ、どうなさったのです!?」

これといった仕事もない午前を、バートンはすっかり放心して過ごしていたらしい。おかしいくらい狼狽して、不格好な敬礼をした。本当にあの兵士長に指導されているのか、疑問に思うほどだ。足元にはいくつかの樽が乱雑に置かれていて、王の行方を邪魔していた。慌ててどかそうとするバートンを、王は軽く手を上げて制止した。

「バートン。先日お前に頼んだ薬だが、ちっとも効かぬではないか!」
「えっ、そ、そうですか!? おっかしいなあ、一生懸命手に入れたのになあ~」
「ええい、ばかもの! あんなものではだめに決まっとるじゃろ。やくそうと、どくけしそうと、まんげつそうだったではないか! ワシは毒にあたったわけでも、痺れてもおらんぞ。頭が痛いのだと言ったではないか!」
「はっ、はいっ、確かに、頭痛がなさると…! ですが、王さま…。」

バートンは叱責に怯えながらも王の顔を伺った。若い彼の心配そうな表情に気づき、王は言葉をとめた。

「王さま、…そんなに、お悪いのですか?」
「…別に、病気ではない。ただ、頭が痛いというだけじゃ。」

王は口調を和らげた。同時に、すまないことをしていると思った。バートンもまた、王室の健在を望む一人の若者なのだ。地位のない彼に対してなら気を遣わずに好き放題に叱り飛ばせるとか、弱い姿を見せてもいいという気の緩みは、バートンにしてみればかわいそうな話だった。本当はバートンとて、王のこのような姿を見たくはないだろう。一兵士の彼ならば立場上重荷にはならない、そうでなくともお気楽な性格ゆえに荷の重さを感じないだろうなどと考えることは、王の身勝手な願望なのかもしれない。「誰にも言うな」と念を押して彼には大きすぎる秘密を抱えさせているのだ、迷惑な話に違いない。

「とにかく、もう一度探してくれ。城下で手に入るような薬では効かぬのだ。…それから、前にも言ったようにくれぐれも内密にな。いや、大したことではないのに、城内につまらぬ心配が広がっては困るからな。」
「はっ。それはもう、このバートン、兵士長にも言いません!」
「うむ。では頼んだぞ。よい薬を待っておる。」

頭が痛くて仕方ないのだ、と言いかけて、ぐっと我慢して飲み込んだ。
本当はバートンにあたり散らし、愚痴の相手もしてもらえば楽にもなるだろうと思っていたが。


毎夜の眠りは浅く、それでいて引きずり込まれるようにぐったりと深く、何か、悪い夢を見ているようなのに、目覚めると何もはっきりと思い出せなかった。ただ、頭の重さだけがいつまでも残った。

「どうしたことか。せっかくフィオーネも無事戻ったというのに…。」

一人になって思わず呟くと、小さな音が西の回廊に反響した。その音の向こうに何かを感じて、王はふと立ち止まった。まただ。こうして城の中を移動しているとき、ふとした瞬間に啓示を感じる気がする。自分は鈍感なほうだと自覚している。妻にはそのことで度々呆れられてきたし、父親として多感な娘の感情の揺れに気づいてやれないことは、申し訳ないと思っていた。それなのにこのような呪詛めいた不可思議な気配に足を止めるなどと、どうしたことだろうか。遠く暗い場所から語りかける、あるいは、この肉体の内側からざわめく、何かがあるような気がするのだ。



兵士長は再び少しの乱れもない敬礼をして帰室する王を迎えた。
玉座の隣に佇むフィオーネは微笑を浮かべ、「お帰りなさい、お父様。」と優しい声で言った。
その首元に輝く真珠の首飾りの由来は古く、連綿と続く王家の歴史を感じさせる。遠い昔の涙の連なりのようだとは城の詩人の喩えだった。

「外はいかがでした?」
「うむ。天気もよいし、気持ちのよい気候だ。」
「わたくしも、お母様と一緒に少し歩いてまいりますわ。」

フィオーネに手を差し伸べられ、王妃は幸福そうな笑顔を浮かべて立ち上がった。王は玉座に身を沈めて穏やかに二人を見送っていたが、階下に吸い込まれていくフィオーネの姿を見たとき、再び例の啓示が下り、覚えず頭を押さえた。まるでその光景に重なる、別の景色が垣間見えたような錯覚だ。愛娘フィオーネは美しくすこやかに育っていた。それだけで満足であるはずなのに、黒騎士の事件で理解し難い行動を取って以来、彼女の瞳の輝きには見慣れぬものが残っているように思えてならない。

あの時、娘はどうしてしまっていたのか。
国にもフィオーネにも平穏が戻ったといって、気がかりが全て消えたわけではなかった。

黒騎士のことを思い出す時、必ず同時に、どこか寂しい、低い、冷たい場所がぼんやりと思い浮かぶことが不思議だった。それは視覚というより体感に近かった。いつか訪れた記憶のある風景でもないのに。


私を呼ぶ者はあの黒騎士ではない。
何者の嘆きか、毀れた回廊の円柱、剥離し、散乱する壁の装飾、崩れ落ちた門扉、それはこのセントシュタインであってそうではなく……

ああ、足元から、何かが語りかけるようだ。
兵士長と目が合って、王は頭に触れていた手を降ろした。
頭が痛いのだ、知り得ぬあの朽ちた迷宮を満たす痛切な悲鳴が頭の奥まで響いてきて、時々、割れそうに痛む。







「もっとおくすりを」は、クエストの名前です。このクエストをした時に、王様とバートンの関係にときめきを覚え、下書きをしていたものです。まだストーリー自体配信中なので、あとから色々分かったらこの小説はゲームと矛盾が出てきてしまうかもしれず、それが心配で放置していたのですが、逆にそうなったら絶対お蔵入りだと思うと今のうちとも思って、書いてしまいました。

「兵士長と王様」とか、「兵士長と兵」のようなものも好きですが、「国王と一兵卒」というこの開きすぎた関係が何だかいい、と思うのですが、どうでしょうか? 
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ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

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