ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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6月になりました。
いつものお題小説とは別に、梅雨に寄せてのSSです。
2009年6月 モル元
いつものお題小説とは別に、梅雨に寄せてのSSです。
2009年6月 モル元
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2009年5月の更新記録です。
ステンドグラスを嵌め込んだ窓の向こうは闇。でもきっとあの少年は近くにいるのだろうと思いながら、神父はひとり聖書の頁を捲った。ここはフィッシュベルの小さな教会、昼には村の人々が祈りを捧げに訪れるが、翌日の漁に備える漁村の夜は早く、こんな暗闇のなか浜辺を逍遥し教会をたずねるのは、まだ仕事のない少年くらいのものだった。
コトリ、と小さな物音がしたのを聞き取り、神父は顔を上げた。続いて、ギィと扉の開く音。
「アルス。やっぱり来たか。」
神父は微笑を湛えた瞳で少年を迎えた。漁師ボルカノのせがれ、アルスだ。遠慮がちな足取りで長椅子の間を渡ってくる。
「神父さま。」
「どうしたアルス、こんな夜更けに。また海の向こうの話かな?」
アルスは恥ずかしそうに頷いた。毎晩のように話しに来るので、最近では神父はほとんどアルスを待つためだけに夜更かしをして聖典を読んだ。
「分かるとも、アルス。海の向こうに何かがあると、若者ならば誰もが思うだろう。」
この世界に、エスタード島がたったひとつ。人間はこの村とグランエスタード城だけに住む。それが全世界であとは海だと言われて育っても、若者は簡単には納得しない。それは当然のことで、どんな老人も若かりし頃一度は海の向こうにまったく別の島の存在を疑ったのだ。
「私も昔はそう思った。誰でもそう考えるものだ。しかし、エスタードが全てなのだよ。」
何度そう告げても、アルスの眼は好奇心に輝き、うずうずと冒険を夢見ていた。
「神父さま、昔、船を作って海に出たんでしょう? その話を聞かせて下さい。」
「そりゃ出るには出たさ、船をこしらえてね。陸が見えると信じて。しかし実際のところは、どこまで行っても、やっぱり海だったのだよ。」
「ほんとうに?」
「本当さ。」
神父は同情のまなざしを向けた。若かったあの日々、アルスと同じように期待をもって旅立ち、しかし永遠に続く海に絶望し、そしてついに外界を諦めた。その時はひどく意気消沈したものだったが、一方で、大人たちの言った世界の姿を自分の目で確かめたことで、納得もした。しかしアルスのきらきら光る目を見ていると、彼にまでそんな時期が来てしまうことは惜しい気がした。特に最近のアルスはキーファ王子といつも一緒に外遊びに出かけて楽しそうだ。その彼らが傷つくところ、冒険を諦める様子を想像すると胸が痛んだ。
「色々と考えたり見て回ることも悪くないだろう。しかしアルス、くれぐれも両親に心配をかけてはいけないよ。」
アルスは素直に頷いた。
「いい子だ。さ、もう家に戻りなさい。」
アルスは丁寧にお辞儀をして教会を後にした。開いた扉の向こう側から打ち寄せる海の音が聞こえてくる。いつの世も、その海の果てに若者の思いは募るばかりだ。アルスの顔を見ていると、時々、かつての外界への憧れが蘇ってくるような気がした。もう一度かなたに夢を見てしまいそうだ。
扉が閉まり、波音は遠ざかった。神父はそっと聖書を閉じ、過去に思いを馳せた。ずっと昔、旅を試みたあの船、風を孕んだ帆が、脳裏にふわりと思い出された。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「Scorpion」様
コトリ、と小さな物音がしたのを聞き取り、神父は顔を上げた。続いて、ギィと扉の開く音。
「アルス。やっぱり来たか。」
神父は微笑を湛えた瞳で少年を迎えた。漁師ボルカノのせがれ、アルスだ。遠慮がちな足取りで長椅子の間を渡ってくる。
「神父さま。」
「どうしたアルス、こんな夜更けに。また海の向こうの話かな?」
アルスは恥ずかしそうに頷いた。毎晩のように話しに来るので、最近では神父はほとんどアルスを待つためだけに夜更かしをして聖典を読んだ。
「分かるとも、アルス。海の向こうに何かがあると、若者ならば誰もが思うだろう。」
この世界に、エスタード島がたったひとつ。人間はこの村とグランエスタード城だけに住む。それが全世界であとは海だと言われて育っても、若者は簡単には納得しない。それは当然のことで、どんな老人も若かりし頃一度は海の向こうにまったく別の島の存在を疑ったのだ。
「私も昔はそう思った。誰でもそう考えるものだ。しかし、エスタードが全てなのだよ。」
何度そう告げても、アルスの眼は好奇心に輝き、うずうずと冒険を夢見ていた。
「神父さま、昔、船を作って海に出たんでしょう? その話を聞かせて下さい。」
「そりゃ出るには出たさ、船をこしらえてね。陸が見えると信じて。しかし実際のところは、どこまで行っても、やっぱり海だったのだよ。」
「ほんとうに?」
「本当さ。」
神父は同情のまなざしを向けた。若かったあの日々、アルスと同じように期待をもって旅立ち、しかし永遠に続く海に絶望し、そしてついに外界を諦めた。その時はひどく意気消沈したものだったが、一方で、大人たちの言った世界の姿を自分の目で確かめたことで、納得もした。しかしアルスのきらきら光る目を見ていると、彼にまでそんな時期が来てしまうことは惜しい気がした。特に最近のアルスはキーファ王子といつも一緒に外遊びに出かけて楽しそうだ。その彼らが傷つくところ、冒険を諦める様子を想像すると胸が痛んだ。
「色々と考えたり見て回ることも悪くないだろう。しかしアルス、くれぐれも両親に心配をかけてはいけないよ。」
アルスは素直に頷いた。
「いい子だ。さ、もう家に戻りなさい。」
アルスは丁寧にお辞儀をして教会を後にした。開いた扉の向こう側から打ち寄せる海の音が聞こえてくる。いつの世も、その海の果てに若者の思いは募るばかりだ。アルスの顔を見ていると、時々、かつての外界への憧れが蘇ってくるような気がした。もう一度かなたに夢を見てしまいそうだ。
扉が閉まり、波音は遠ざかった。神父はそっと聖書を閉じ、過去に思いを馳せた。ずっと昔、旅を試みたあの船、風を孕んだ帆が、脳裏にふわりと思い出された。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「Scorpion」様
「あらっ、船が見えるわ!」
フィッシュベルの、気持ちよい浜辺に寝転んでいた僕は、
双眼鏡を手にしていたマリベルがそう叫んだので体を起こした。
遠い遠い海の向こうに、霞める島をのぞむ。
かつてはエスタードは切り取られた島で、波のかなたには何も見えなかった。
「どの船?」
「決まってるじゃない。ほら。」
マリベルが僕に双眼鏡を渡す。
マリベルは、網元のお嬢様として好き放題できるのも今のうち、という年頃で、
よく僕の家に遊びにきて僕を浜辺に誘った。
何をするでもなく、海を見たり、こうして転寝したり。
そうでないとき、マリベルが色々と、
海のこと、船のこと、漁のこと、
それに天体の働きについて真面目に勉強しているのを僕は知っていた。
マリベルはいつのまにか美人になっていて、そして、ちょっと不良になった。
何しろ少し前までは、世界中を飛び回って魔物退治していたのだから、
今、平和になって、網元の仕事を教わって、
さあそろそろ結婚も、という周囲の期待、
マリベルがこんなふうになるのも無理はない。
と言って、アミットさんたちに心配をかけるのはもうこりごりなので、別段荒れたことはしない。
そのかわりに、
彼女はどことなくけだるい。
波間に幾艘もの船が見える。
漁船、貿易船、客船、
そして遠く、遠く、
ひときわ大きなマストがこの距離でも目立つ、あの船は。
「ラッキーだわ。私、乗せてもらおうかしら!」
巨大海賊船マール・デ・ドラゴーン。
僕らを導いた、僕らの友人たちが走らせる、懐かしい船。
「まだ遠いよ。」
僕はそう言ったけれど、
あの海賊船がものすごく速くて、
あっという間に近海にその勇壮な姿を現すことを知っていた。
マリベルはわくわくして言った。
「あの総領さん、元気かしら。ボロンゴさんや皆も!」
僕はキャプテン・シャークアイの姿を思い描く。
あの人は、いつだって元気だ。
ただ一度最後の別れの時、まるで無理に笑っているように見えただけ。
忘れられない。
あの長い髪を潮風になびかせる姿、
朗々と響きわたる、明るい笑い声を。
僕は再び背中を砂につけたが、ドキドキし始めた胸の高鳴りはやまず、
さっきのようなのんびりした気分にはとても戻れなかった。
腕の紋章まで、何だか疼くみたい。
「ねえマリベル、うちでご飯食べてこようよ。」
「なあにアルス、お腹すいたの?」
「食べて戻ってきたらちょうどいいくらいだよ、たぶん。まだあんなに遠いし。」
「……それもそうね。」
マリベルはそう言って僕より先にさっさと立ち上がった。
オレンジ色のドレスについた砂を、
「ん。」というふうに無言で僕に見せつける。
つんと上を向いた顎。
僕は隣に立って、ドレスの砂を丁寧に払ってあげる。
マリベルは時々、ご飯時や夕暮れにも、村に戻りたくないと言い出す。
その彼女が朝昼晩とちゃんとご飯を食べるようにしむけるのが、
最近の僕のつとめの一つだった。
こうしているうちにどのくらいあの海賊船は近づいただろう、と、
僕はそんなことを考えながら自分の家に戻った。
「おかあさーん、ごはん」
「あら、マリベルお嬢様、いらっしゃい」
「こんにちは、マーレおばさま。」
マリベルはお母さんに挨拶をしてから、
「ちょっと、アルス、いつまでも子供っぽいんだから!」
と耳元で小言を言って僕を小突いた。
それは僕のお母さんにも聞こえてしまったらしく、お母さんを笑わせた。
テーブルにはボルカノ父さんの姿があって、
僕らを見ると、
「おう、あの人の船が来てるな!」
と言った。
「いつ頃来るかなあ?」
「昼飯を食ったらちょうどいいだろうさ。今から海に出る連中は、そうだな、どのへんで行き会うかな?」
「あたし、乗るわ。」
マリベルは急き込むようにそう言ってからお母さんの出した海料理をぱくつき、
「おばさま、これとっても美味しい!」
と叫んだ。
僕もお料理に手を伸ばしながら、窓の外を見る。
マール・デ・ドラゴーンの姿を認めた港が興奮にざわめいているのが、
ここからでもわかった。
食後のお茶を飲んでいると、
突然ドオン!!と、ものすごい轟音がした。
びりびりとしびれるような衝撃に僕らはびっくりし、それから顔を見合す。
来たのだ。
マール・デ・ドラゴーンの空砲だ。
港のほうで歓声が上がっている。
フィッシュベルの漁師たちはみな、あの海賊たちが大好きだ。
「びっくりしたあ、思ったよりずっと早かったね」
「ははは、あの空砲なぁ、魚が逃げて困るんだ」
ボルカノ父さんは苦笑してそう言ったけれど、
嬉しそうで、ちっとも困った様子には見えなかった。
お母さんがテーブルにこぼれた紅茶を拭く。
全員で家の外に出て、真っ青な海に聳え立つ船を僕らは見つめた。
白い巨大な帆が、青い空にくっきりと際立つ。
染め抜かれた水の紋章。
海賊たちの姿や声はここまでは届かなかったけれど、
僕はその船の一番前に、きっとあのシャークアイが佇んでいるのだろうと思った。
長いマントをなびかせて、
楽しそうに、やさしそうに微笑んでいるのだろう。
最近僕は鏡を見ている時、ふとあのキャプテンの顔を思い出す。
マール・デ・ドラゴーンはしばし僕らに挨拶するようにその場にとどまり、
それからゆっくりと舵を巡らせた。
「あら、今日はフィッシュベルに寄ってくれないの!?」
マリベルが残念そうに叫んだ。
その隣でマーレお母さんが、少しほっとしたような顔を見せた。
「マリベル。城下町に行こうよ。」
僕がそう誘うと、
マリベルはちょっと考えてから、
「そうね。行くわよアルス!」
と言って、
僕の袖を引っ張った。
* * * * * *
web拍手お礼小説でした!
期間中拍手ボタンを押して読んで下さった方、ありがとうございました。
「なないろの雫」を始めて、拍手を設置して、
最初に用意したお礼小説でした。
気に入って来て下さる方がいらっしゃるのかとても不安で、
そんなときに拍手をいただけているのを見ると、すごく励みになりました!
今後も、ご感想などお気軽にお聞かせ願えれば幸いです!
設置期間:2009年4月~5月24日
フィッシュベルの、気持ちよい浜辺に寝転んでいた僕は、
双眼鏡を手にしていたマリベルがそう叫んだので体を起こした。
遠い遠い海の向こうに、霞める島をのぞむ。
かつてはエスタードは切り取られた島で、波のかなたには何も見えなかった。
「どの船?」
「決まってるじゃない。ほら。」
マリベルが僕に双眼鏡を渡す。
マリベルは、網元のお嬢様として好き放題できるのも今のうち、という年頃で、
よく僕の家に遊びにきて僕を浜辺に誘った。
何をするでもなく、海を見たり、こうして転寝したり。
そうでないとき、マリベルが色々と、
海のこと、船のこと、漁のこと、
それに天体の働きについて真面目に勉強しているのを僕は知っていた。
マリベルはいつのまにか美人になっていて、そして、ちょっと不良になった。
何しろ少し前までは、世界中を飛び回って魔物退治していたのだから、
今、平和になって、網元の仕事を教わって、
さあそろそろ結婚も、という周囲の期待、
マリベルがこんなふうになるのも無理はない。
と言って、アミットさんたちに心配をかけるのはもうこりごりなので、別段荒れたことはしない。
そのかわりに、
彼女はどことなくけだるい。
波間に幾艘もの船が見える。
漁船、貿易船、客船、
そして遠く、遠く、
ひときわ大きなマストがこの距離でも目立つ、あの船は。
「ラッキーだわ。私、乗せてもらおうかしら!」
巨大海賊船マール・デ・ドラゴーン。
僕らを導いた、僕らの友人たちが走らせる、懐かしい船。
「まだ遠いよ。」
僕はそう言ったけれど、
あの海賊船がものすごく速くて、
あっという間に近海にその勇壮な姿を現すことを知っていた。
マリベルはわくわくして言った。
「あの総領さん、元気かしら。ボロンゴさんや皆も!」
僕はキャプテン・シャークアイの姿を思い描く。
あの人は、いつだって元気だ。
ただ一度最後の別れの時、まるで無理に笑っているように見えただけ。
忘れられない。
あの長い髪を潮風になびかせる姿、
朗々と響きわたる、明るい笑い声を。
僕は再び背中を砂につけたが、ドキドキし始めた胸の高鳴りはやまず、
さっきのようなのんびりした気分にはとても戻れなかった。
腕の紋章まで、何だか疼くみたい。
「ねえマリベル、うちでご飯食べてこようよ。」
「なあにアルス、お腹すいたの?」
「食べて戻ってきたらちょうどいいくらいだよ、たぶん。まだあんなに遠いし。」
「……それもそうね。」
マリベルはそう言って僕より先にさっさと立ち上がった。
オレンジ色のドレスについた砂を、
「ん。」というふうに無言で僕に見せつける。
つんと上を向いた顎。
僕は隣に立って、ドレスの砂を丁寧に払ってあげる。
マリベルは時々、ご飯時や夕暮れにも、村に戻りたくないと言い出す。
その彼女が朝昼晩とちゃんとご飯を食べるようにしむけるのが、
最近の僕のつとめの一つだった。
こうしているうちにどのくらいあの海賊船は近づいただろう、と、
僕はそんなことを考えながら自分の家に戻った。
「おかあさーん、ごはん」
「あら、マリベルお嬢様、いらっしゃい」
「こんにちは、マーレおばさま。」
マリベルはお母さんに挨拶をしてから、
「ちょっと、アルス、いつまでも子供っぽいんだから!」
と耳元で小言を言って僕を小突いた。
それは僕のお母さんにも聞こえてしまったらしく、お母さんを笑わせた。
テーブルにはボルカノ父さんの姿があって、
僕らを見ると、
「おう、あの人の船が来てるな!」
と言った。
「いつ頃来るかなあ?」
「昼飯を食ったらちょうどいいだろうさ。今から海に出る連中は、そうだな、どのへんで行き会うかな?」
「あたし、乗るわ。」
マリベルは急き込むようにそう言ってからお母さんの出した海料理をぱくつき、
「おばさま、これとっても美味しい!」
と叫んだ。
僕もお料理に手を伸ばしながら、窓の外を見る。
マール・デ・ドラゴーンの姿を認めた港が興奮にざわめいているのが、
ここからでもわかった。
食後のお茶を飲んでいると、
突然ドオン!!と、ものすごい轟音がした。
びりびりとしびれるような衝撃に僕らはびっくりし、それから顔を見合す。
来たのだ。
マール・デ・ドラゴーンの空砲だ。
港のほうで歓声が上がっている。
フィッシュベルの漁師たちはみな、あの海賊たちが大好きだ。
「びっくりしたあ、思ったよりずっと早かったね」
「ははは、あの空砲なぁ、魚が逃げて困るんだ」
ボルカノ父さんは苦笑してそう言ったけれど、
嬉しそうで、ちっとも困った様子には見えなかった。
お母さんがテーブルにこぼれた紅茶を拭く。
全員で家の外に出て、真っ青な海に聳え立つ船を僕らは見つめた。
白い巨大な帆が、青い空にくっきりと際立つ。
染め抜かれた水の紋章。
海賊たちの姿や声はここまでは届かなかったけれど、
僕はその船の一番前に、きっとあのシャークアイが佇んでいるのだろうと思った。
長いマントをなびかせて、
楽しそうに、やさしそうに微笑んでいるのだろう。
最近僕は鏡を見ている時、ふとあのキャプテンの顔を思い出す。
マール・デ・ドラゴーンはしばし僕らに挨拶するようにその場にとどまり、
それからゆっくりと舵を巡らせた。
「あら、今日はフィッシュベルに寄ってくれないの!?」
マリベルが残念そうに叫んだ。
その隣でマーレお母さんが、少しほっとしたような顔を見せた。
「マリベル。城下町に行こうよ。」
僕がそう誘うと、
マリベルはちょっと考えてから、
「そうね。行くわよアルス!」
と言って、
僕の袖を引っ張った。
* * * * * *
web拍手お礼小説でした!
期間中拍手ボタンを押して読んで下さった方、ありがとうございました。
「なないろの雫」を始めて、拍手を設置して、
最初に用意したお礼小説でした。
気に入って来て下さる方がいらっしゃるのかとても不安で、
そんなときに拍手をいただけているのを見ると、すごく励みになりました!
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設置期間:2009年4月~5月24日
目が覚めたら、猫になっていた。
真っ黒な尻尾を見つめながら、オレはそれが自分自身のものである事実を何度も疑った。それは意のままに目の前を往復し、そしてその動きだけでいくらでも時を慰める。しかし、そうそううまくいくはずがないじゃないか。ただ眠り、目覚めただけで猫になれると? きっとこれは夢だ。
柔らかなベッドを離れる。床との高さと感触の違いは楽しく、ここが格好の遊び場だと一瞬で理解した。ミントは躾された猫だから勝手に飛び乗ったり飛び降りたりはしないが、普通の猫なら必ず関心を示すだろう。とん、と床に両手を着く、部屋に響くはずの衝撃音がオレ自身の肉体の柔軟さによってかき消されることには感動せずにいられない。足音を忍ばせドアへと向かう、漆黒の小さな姿が姿見の中を横切って行った。
海風。
くん、と自然に鼻が動いた。
全身の毛並がなびく。
オレはひそやかな足取りで長い階段を降り、甲板に出て、そこで働く海賊たちの足の間を縫っていく。
強烈な魚のにおい。海と人のざわめき。
ふと、誰かの温かい両手が、背後からオレをぐいと持ち上げた。何とも言えない浮遊感は不快であるようでいて妙に心地良い。耳元で男たちの会話が聞こえた。この船で働く全員をオレは把握しているはずだが、猫の耳では、誰の声だか判別出来なくなっていた。
――おい、こんな黒い猫、前から船にいたか?
――さあ、そういや見かけねえ気もするなあ。
――白いのと茶色っこいトラジマはこのあたりでよく見るけどな?
――おまえって猫好きだなあ! その黒猫が気に入ったのか?
――だってなあ、さっきからこの猫っことすれ違った猫がよ、止まってこいつを振り返ってんだよな。面白いなあ。何だろうなあ。
――へーえ、そんなことがあるもんなのか? …何だか随分キレイな猫だな。オスか?
「うにゃあ!」
くわっと口を開いて一声威嚇すると、男たちはオレを手放した。
急に放されたって着地はきれいだ。
オレは人間たちをほったらかして、四つ足で船尾を目指す。
愛猫ミントの姿はコンテナの陰に見つかった。
「にゃあん」
「にゃあー」
ミントはオレを認めると、可愛い頭を擦り寄せてきた。
とてもいいにおいがする。
――御主人さま、猫になったんですか?
――いや、そういう話は聞いたことがないし、たぶんこれはオレの夢だろう。でも嬉しいよ、いつか猫になってお前と遊んでみたいと思っていた。ずっと。
――これは一時の夢?
――きっとそうだろう。
――御主人さまの夢じゃなくて、私の夢かもしれない。
ミントはそう語ると、幸せそうな微笑を浮かべた。人間の目には分からない表情。両眼を開いた猫の顔がはっきり笑うのを、オレは初めて見ることができた。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様
(1)としてありますが、別のお話を書こうかなーと思っているので、
続きはありません。
真っ黒な尻尾を見つめながら、オレはそれが自分自身のものである事実を何度も疑った。それは意のままに目の前を往復し、そしてその動きだけでいくらでも時を慰める。しかし、そうそううまくいくはずがないじゃないか。ただ眠り、目覚めただけで猫になれると? きっとこれは夢だ。
柔らかなベッドを離れる。床との高さと感触の違いは楽しく、ここが格好の遊び場だと一瞬で理解した。ミントは躾された猫だから勝手に飛び乗ったり飛び降りたりはしないが、普通の猫なら必ず関心を示すだろう。とん、と床に両手を着く、部屋に響くはずの衝撃音がオレ自身の肉体の柔軟さによってかき消されることには感動せずにいられない。足音を忍ばせドアへと向かう、漆黒の小さな姿が姿見の中を横切って行った。
海風。
くん、と自然に鼻が動いた。
全身の毛並がなびく。
オレはひそやかな足取りで長い階段を降り、甲板に出て、そこで働く海賊たちの足の間を縫っていく。
強烈な魚のにおい。海と人のざわめき。
ふと、誰かの温かい両手が、背後からオレをぐいと持ち上げた。何とも言えない浮遊感は不快であるようでいて妙に心地良い。耳元で男たちの会話が聞こえた。この船で働く全員をオレは把握しているはずだが、猫の耳では、誰の声だか判別出来なくなっていた。
――おい、こんな黒い猫、前から船にいたか?
――さあ、そういや見かけねえ気もするなあ。
――白いのと茶色っこいトラジマはこのあたりでよく見るけどな?
――おまえって猫好きだなあ! その黒猫が気に入ったのか?
――だってなあ、さっきからこの猫っことすれ違った猫がよ、止まってこいつを振り返ってんだよな。面白いなあ。何だろうなあ。
――へーえ、そんなことがあるもんなのか? …何だか随分キレイな猫だな。オスか?
「うにゃあ!」
くわっと口を開いて一声威嚇すると、男たちはオレを手放した。
急に放されたって着地はきれいだ。
オレは人間たちをほったらかして、四つ足で船尾を目指す。
愛猫ミントの姿はコンテナの陰に見つかった。
「にゃあん」
「にゃあー」
ミントはオレを認めると、可愛い頭を擦り寄せてきた。
とてもいいにおいがする。
――御主人さま、猫になったんですか?
――いや、そういう話は聞いたことがないし、たぶんこれはオレの夢だろう。でも嬉しいよ、いつか猫になってお前と遊んでみたいと思っていた。ずっと。
――これは一時の夢?
――きっとそうだろう。
――御主人さまの夢じゃなくて、私の夢かもしれない。
ミントはそう語ると、幸せそうな微笑を浮かべた。人間の目には分からない表情。両眼を開いた猫の顔がはっきり笑うのを、オレは初めて見ることができた。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様
(1)としてありますが、別のお話を書こうかなーと思っているので、
続きはありません。
額の髪をそっと分けて、
やさしく触れる手。
ひやりと冷たくて、気持ちいい。
「…だれ?」
私はそっと目を開く。
ピンク色の天蓋が、熱に潤む視界にゆらゆら揺れている。
そしてここにあるはずのない、草原の色をした……
「…アルス?」
目の前に、てのひら。
それはゆっくりとあたたかな光を集め、次第に豊かに輝いて、
そしてその輝きは私の内側を目指し、静かに浸透しはじめる。
魔法のちから。
「言っとくけど…、今マリベル様の力を借りたくったって…、あたしは風邪で動けないんだから、ね…。」
仲間たちはあたしを置いて、世界のどこかに行っちゃうし。
メイドはおろおろうるさいし、 お医者様の薬湯は苦い。
身体は熱っぽくてだるくて、頭がガンガン割れそうで、
「なによ、もう、ばか、皆だいっきらいよ…!」
魔法のてのひらはもう一度ふわふわ柔らかな光をたたえて、
ごめんね、マリベル。
そう囁いたような気がした。
かすかに聞こえた、回復の呪文。
目が覚めたとき、
部屋には夕暮れのオレンジ色がいっぱいに差し込んでいた。
ピンク色の天蓋を透かすその光、金糸の縁取りが反射する。
身体を起こしても、もうめまいはしなかった。
頭もズキズキ痛くない。
夢だったのかな?
そう思ったとき、ノックが聞こえ、
「あ、マリベル。起きたの? 具合どう?」
ひょこ、とドアから覗いた、草原の色をした帽子。
アルスはにこっと軽やかな笑顔を見せた。
あたしは世界を、もう一度好きになっていた。
――――――――――
お題はこちらのサイト様から頂きました
「うたかた遊び」様
お気に召しましたら押して頂けると励みになります
やさしく触れる手。
ひやりと冷たくて、気持ちいい。
「…だれ?」
私はそっと目を開く。
ピンク色の天蓋が、熱に潤む視界にゆらゆら揺れている。
そしてここにあるはずのない、草原の色をした……
「…アルス?」
目の前に、てのひら。
それはゆっくりとあたたかな光を集め、次第に豊かに輝いて、
そしてその輝きは私の内側を目指し、静かに浸透しはじめる。
魔法のちから。
「言っとくけど…、今マリベル様の力を借りたくったって…、あたしは風邪で動けないんだから、ね…。」
仲間たちはあたしを置いて、世界のどこかに行っちゃうし。
メイドはおろおろうるさいし、 お医者様の薬湯は苦い。
身体は熱っぽくてだるくて、頭がガンガン割れそうで、
「なによ、もう、ばか、皆だいっきらいよ…!」
魔法のてのひらはもう一度ふわふわ柔らかな光をたたえて、
ごめんね、マリベル。
そう囁いたような気がした。
かすかに聞こえた、回復の呪文。
目が覚めたとき、
部屋には夕暮れのオレンジ色がいっぱいに差し込んでいた。
ピンク色の天蓋を透かすその光、金糸の縁取りが反射する。
身体を起こしても、もうめまいはしなかった。
頭もズキズキ痛くない。
夢だったのかな?
そう思ったとき、ノックが聞こえ、
「あ、マリベル。起きたの? 具合どう?」
ひょこ、とドアから覗いた、草原の色をした帽子。
アルスはにこっと軽やかな笑顔を見せた。
あたしは世界を、もう一度好きになっていた。
――――――――――
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「うたかた遊び」様
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プロフィール
HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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