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重たい装束の下に覗く王の踝は痩せて細く、かつて若かりし頃の、美しく逞しかった姿を覚えていた私は、思わず眼を逸らしそうになった。白日の下に王が姿を見せることは最近では稀だった。兵士長の私は今ではどの大臣よりも頻繁に謁見を願う身でありながら、それがほの暗い謁見の間や、夜の兵士長室ばかりで行われたから、彼が短い年月のうちにこれほどまで痛々しくやつれていることに今日まで気づかなかったのだ。


鎮魂の日。
青い装束をまとった僧侶たちが王の背後に整列した。
この王国が魔物に襲われるようになってから、二度目の儀式だった。


一度目は冬だった。二度目の今日は、夏の一日を割いた。気候こそ晴れ晴れとしていたが、王の心はあの日と同じように、いや、あの日よりもさらに凍えているのだろう。半年前には戦死者たちの碑を前にして慟哭した王は、今日はひどく物静かだった。誰に語りかけることもせず、涙することもせず、ただ陽の下に哀れな敗北者の姿を晒していた。


墓、墓、墓…。
戦士たちの、そして平和の世に生を享けたならば幸福に生きられたはずの民たちの。


一度目の儀式から半年が経ち、聳え立つ墓標の数は、軍を担う私ですら、目の当たりにした瞬間には絶望に膝を折りそうになるほどに増えていた。国土は荒れ、死者を慰めるための花さえ、満足に咲かなかった。


僧侶たちの唱和が途切れ、大司教の祈りがそれに続いた。続いて王が定められた短い鎮魂の言葉を捧げ、そしてその次に、兵士長の私が指名される。滞りなく進められる儀式。平和の国コスタールが、このような儀式に慣れる日が来ようとは。だが語り始めた私の声は、思いがけずせり上がった嗚咽にかき消された。

「だ、大丈夫ですか、兵士長さま…」

近くにいた尼僧が一人二人、私を案じて駆け寄る。式は乱れ、ざわめきが起こり、やがて王までが私を振り返った。しかしこの事態にもさしたる動揺を見せぬ我が王の姿を見た時、私は愈々混乱してしまった。王は絶望に犯されて心を失っていた、まるで彼自身が彷徨える死者のごとく。全身に震えが走り、たまらず膝をつく。幾多の民の血を吸った大地に触れ、私の装備は金属の悲痛な嘆きをあげた。だが無数の墓と私の間で、王はうなだれもせず、ただ立ち尽くしている。


もはや悲しみに泣いてはくださらないのか。
悔しくて立ち上がってはくださらないのか。


王国から集結した若人の命を散らしたのは、兵士長たる私の責任に他ならない。だが王は、一度として私を責めなかった。王はかえって私に詫びた。元来戦争を好まない私が悪かったのだ、お前にも、お前の兵たちにもすまないことをした、と。

地を見つめていた私の目前に、王の靴と、その細い踝が見えた。いつの間にか王は私のそばに来ていて、その身をかがめ、そして枯れ枝のような手を私の肩にかけた。


「落ち着かぬか、兵士長。お前がそんなでは、他の者が動揺する。」
「動揺すればよいのです! 王よ、畏れながらあなたもだ!」


私は涙を拭きもせず王を振り仰いだ。礼を失した私は、怒りと悲しみに駆られて、死ぬまでの忠誠を誓った主君を睨んでいた。王の双眸はその私の姿を見て、ようやく揺らいだ。

「このままではこの国は滅びます! エデンに仕えるべきは鎮魂する彼ら僧たちばかりではありますまい! 立ち上がらねば、戦士たちが立ち上がらねば…!」
「しかし、我が軍は…」

王はそこまで口にしてから言い淀んだ。そうだ、我が軍は脆弱なのだ。その上、兵の数も削られ、ここに並ぶ墓碑となり、魔物の跋扈する荒波の上ではもはやまともに戦うことなどできぬのだろう。それでも私は王に絶望してほしくはなかった。諦め、民に詫びつつ、国とともに死を待つ、悲劇の王でいてほしくなかった。家族のない王、悲しすぎる運命に、ともに立ち向かうには私では不足なのだろう。それでも私は彼に、涙をみせてほしかった。心を殺さず、思うさま嘆き、そして怒りに立ち上がる王でいてほしかったのだ。

「…申し訳ありません、取り乱しました。」
「いや、よいのだ。確かにお前の言うとおりだ…」

その時、王の眼尻が一瞬、僅かに濡れたのを私は見逃さなかった。王よ、と私は咄嗟につぶやいた。絶望は人を虚無にする、人は、希望する時にしか嘆かないのだ。そのことを私は王によって教えられた。だからこそ私は、王の瞳の上に閃いた、かすかな希望の気配に縋ったのだ。

「…王宮に戻ったら大臣たちを呼ぼう。私に考えがある。」
「王様…」
「…伝説の海賊船を知っているか。こんな時代にも関わらず、ただ一隻の船で、海の魔物に立ち向かっているという。」

王は切り立った崖の向こう、遠くの海を見つめていた。それから私の傍らにゆっくりと立ち上がった。王がまばたきをする、その頬に、一筋の涙が伝った。

――――――――――

お題はこちらのサイト様から頂きました
http://www.s-ht.com/~way/delucia/

 

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9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

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