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久しぶりの故郷、フィッシュベル。僕はこの土地を、マリベルや他の仲間たちとは離れて、マール・デ・ドラゴーンの船長シャークアイと二人きりで歩いていた。シャークアイが、七色の泉に行きたいと言ったから。
遺跡の洞窟に二人の足音がこだまする。普段、船上では昼夜を問わず靴音を憚らないシャークアイが、今はとても遠慮がちに隣を歩いていることが不思議な気がした。まるで僕の大切な場所を少しも傷つけないようにしているみたいに、彼は丁寧に、物静かに歩いた。普段身につけている鎧やマントを今日は着ていなくて、簡素な白い布の服を着ていることも僕の眼に珍しかった。
シャークアイにこの泉の話をしたとき、最初彼は、「一度その場所に連れて行ってもらえませんか?」と言った。それはいつも僕の希望通りに船を奔らせてくれるシャークアイからの、めったにない頼みだった。多分、旅の終わりに言われたこと以来の、二度目だと思う。けれど、エスタードの東の遺跡が僕とキーファの秘密の遊び場だったと知ると、シャークアイは自分の願いを撤回しようとした。いつかと同じように。
「アルス殿の大切な思い出の場所なのですね、ではやめておきましょう。」
シャークアイは僕に気を遣ってくれたのだ。だけど僕は、きっとシャークアイなら、泉に連れて行ったとしても嫌な気持ちにはならないだろうと思っていた。結果はその通りで、彼が泉に辿り着いてその水に触れても、僕は大切なものを汚されたという気持ちは少しもしなかった。
「この場所に来てみたかったのですよ。」
シャークアイは僕を振り返って、穏やかな声でそう言った。それから、「ありがとうございます、アルス殿。」と丁寧に言ったから、僕は少し気恥ずかしくなって、「いいえ」と慌てて答えた。そもそも、ここは僕の思い出の場所ではあるけれど、別に僕だけの場所ではない。僕が所有しているわけでも何でもないのだ。
シャークアイはしばらく腰をかがめて水面を見つめていたから、僕はぼんやりとその姿を眺めていた。だが、急にその身体が傾いだ、と思ったあとは、あっという間もなかった。バシャン!という大きな音に僕ははっと我に返った。
「シャークアイ!」
僕は狼狽えながら水辺に駆け寄った。突然目の前から姿を消したシャークアイが、不慮に落ちたのかと思ったのだ。呆然として水面を覗き込むと、また唐突にシャークアイが、変な歓声を上げながら、ザバッと水面に顔を出した。
「シャーク!?」
「いや、はっはっは! すみません、つい。」
さっきまで水に触れることさえ怖々という感じだったのに。シャークアイはきらきらと輝くような笑顔を浮かべながら歓声を上げ、ひとしきり水飛沫を散らかした。
「冷たくていい気持ちだ!」
僕は何が何だかわからなくて、呆れて水辺に座り込んだ。
「…精霊の気配がする。」
シャークアイがそっと呟いた。僕は、突飛な連れの様子が急に静かになったので、何だろうと思って彼を見つめた。
「…本当は来るのが怖かったのですよ。」
「どうして?」
「オレは遠い過去から来た、過去の人間だ。ここは精霊の通い道でしょう。オレはかつては精霊とともにあったつもりだが、今ではもう…なつかしいとも感じられないかもしれないと思っていたのです。」
だけどそうではなかったということが、シャークアイの柔らかな表情に表れていた。七色に揺らめく水は、シャークアイを受け入れて包んでいた。
水の民とは、もともと水の精霊の遠い遠い末裔なのだと、マール・デ・ドラゴーンの人たちは僕に教えてくれた。そして水の紋章を腕に刻まれて生まれたシャークアイは、精霊の加護を受けた者、生まれながらに一族を率いる総領となるべき者だったと。だけど僕はその紋章が今ではシャークアイの腕にはないことを知っていた。それは僕の腕の紋章とひとつになってしまったのだから。
シャークアイは水辺に身体を寄せて両手を岩につき、静かに泉を出た。彼の身体から零れる水滴は、泉を離れてもなおその特別の輝きを失わなかった。まばゆい無数の光に目を奪われていたその時、急に僕は精霊の呼びかけを感じた。心に直接伝わってくる、彼女の声を。シャークアイは僕の顔に何かを読み取ったのか、黙って僕を見つめた。
「シャークアイ、今、精霊が…。」
「すまないが、…オレには何も聞こえないのだ。」
「あ!」
僕はシャークアイの背後を指差した。虹だ。七色の泉の上に、半円形の虹の輪がかかっていた。
この場所にこんな虹が出ているところを、僕は初めて見た。それは精霊からシャークアイに与えられた小さな奇跡だった。精霊はさっき、何も言って行かなかった。ただ、アルス、と僕の名前を呼んだだけだった。だけど、水の流れるように、僕の胸には彼女の心が伝わってきた。子孫シャークアイを懐かしみ、その来訪を喜んでいる心が。心配しなくたって、精霊は今でも自分の子供のようにシャークアイを愛していた。
僕はずぶ濡れになってしまったシャークアイと二人並んで泉の淵に腰掛け、精霊の残した虹がゆっくりと消えていくさまを、長い間、黙って見つめた。ついに虹が消えて、立ち上がったシャークアイは濡れた長い髪を両手で肩の後ろに流した。温かな歓迎のしるしを受けた彼は、幸福そうな瞳をしていた。
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お題はこちらのサイト様から頂きました
http://www.s-ht.com/~way/delucia/
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9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!