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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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はっと目覚めた瞬間から、夢見ていた光景は一斉に記憶から遠退いて行った。ほんの一秒前までの夢の世界が覚醒と同時に急速に逃げ去るのはよくある体験だけれど、霧消してゆくその光景から僕はかろうじてひとつのことだけ意識にとどめた。夢の僕は船に乗っていた。そしてその船は僕が毎日父とともに奔らせている故郷の漁船ではなく、キーファやマリベルと旅したあの懐かしい小さな船でもなく、あたかも海上の一王国のごとく聳える、あのマール・デ・ドラゴーン号だった。
 
真夜中の部屋は闇に満ち、色のない世界で、繰り返す波音ばかりが際立っていた。生まれた時からこの音に包まれて暮らしてきたのに、潮騒は安らぎではなくざわめきを僕の胸中に呼び起こした。波のリズムに心を和ませたのは旅をしていた頃だけだった。大海原に帆を立てながら、あるいは港に宿しながら、波の声は穏やかに優しく僕を迎えた。フィッシュベル育ちの大人達が親しみをこめて言う通り、まるで子守唄のように。
 

僕は汗ばんだベッドから抜け出し、足音を立てぬよう用心しながら階段を下りた。階下では父と母が何の心配事もなく安穏と眠っていた。父の寝息を背に僕は浜へと出た。
 
 
海は暗く、遠くに異国の船のあかりがちらついていた。点在するその光だけが、子供の頃見ていた景色と違う。昔、僕の知っていた夜の海にはたった一つの光もなかった。それなのによくも僕らは大人達の語る世界を疑い、ついに旅にまで出たものだ。こうして行き交う船を見ていると、改めて過去のキーファや僕、マリベルの行動に驚きを覚えた。何のしるべもなく波の向こうにまだ見ぬ大陸を夢見て、16歳の僕は身近にはキーファに唆され、そして遠く海の果てから運命に呼ばわれ、この村を離れた。
 
 
海を彩る光はどれもあの海賊船のものではなかった。僕でなくとも、マール・デ・ドラゴーンを一度でも見たことのある人であれば誰でも簡単にそう判断できるだろう。あの船がもし海上にいたのなら一目でそれと見分けられるに違いない。世界に比類ない、舳先から船尾までを飾る壮麗な明かりの列によって。
 

海のざわめきが僕に訴えていた。その焦燥感は子供の頃とちっとも変わらなかった。僕はエデンの使命を果たしてこの村に戻ってきたはずなのに、そして冒険を終えた僕のやるべきことはフィッシュベルの一人前の漁師になることだったはずなのに、打ち消せない落ち着かなさが僕の胸を揺らすのだ。海賊船は僕の初めてのアミット漁を心づくしの花火で見送って以来、一度もエスタードを訪れずにいた。僕は内心であの船を待ち続け、そして待っている間に、ここにいて来訪を期待する僕自身の臆病を恥じるようになっていた。いや、あの別れの日を思い出す限り、臆病というよりもそれはいっそ卑怯なのかもしれなかった。

船に残ると答えた僕にシャークアイは笑って言った。
いくら水の民の頼みだからといって、無理をしなくともよいと。

――そなたにはボルカノ殿という立派な父上がおいでだ。裏切ることはできまい。
――俺には、アルス殿の、その気持ちだけで十分だ。
 

僕は彼の目が、彼の言葉と同じことを語ってはいないと気付いていた。でも僕は彼の心の声が聞こえないふりをした。そうするように、彼によって仕向けられたから。その用意された優しい逃げ道に従い巨船をあとにした自分を振り返る時、僕は何とも言えない苦い気持ちに襲われる。幾度となく夢に見る似たような物語の詳細を覚えていなくても、真昼の太陽の下で激しい忍耐を見せた、あの人の姿が脳裏から去ることはなかった。
 
轟く波音が暗い海をかき混ぜていた。その瞬間、突然啓示のように僕はもう一つの彼の言葉を思い出した。はっと夢から醒めたように僕は呆然と海を見つめた。なぜ今まで忘れていたのか。立ちすくむ僕の目の前にはどこまでも闇色に広がり世界中に繋がる海があった。

別れを告げた後、彼が何と言ったのか。
どうか元気で。
そう言って彼は笑った。
そして、こう続けたのではなかったか。

――どうか元気で。また海のどこかで会うこともあるかもしれんな。

海底に沈む財宝が荒波にまぜ返されて浜に打ち上げられるように、僕の記憶のどこかに潜んでいた彼の言葉は急にその姿を現し、今、耳の奥に決して途切れぬ波音のごとく繰り返し響いていた。


海のどこかで。
彼はそう言ったのだ。
海のどこかで………


目覚めとともに儚く消え去る向こうの世界の記憶を取り戻すように、僕はその声を思い出していた。


いつしか水平線はほの白み、見分けにくくなっていく遠い船明かりに僕は目を凝らした。波打ちはシャークアイのいざないの声を孕み、どこまでも大きく僕の耳を打った。先程までの焦りに代わってじわりと熱い興奮が僕の胸を締め付けていた。猶予の時を経て、僕はようやく変わろうとしていた。フィッシュベルの浜から、近海を漁する船上から、僕はもうあの船を探すのをやめよう。この夜までの僕はシャークアイの言葉を封印し、そしてあの船が僕の近くに突如現れて連れ去ろうとする日が来るのではないかと恐れ、期待していた。それらが避けられない運命として僕の身の上に降りかかる日を待っていたのだ。だけど彼の言葉をすべて取り戻した今、漕ぎ出すのは僕の選択だった。再会の可能性はフィッシュベルの浜でもエスタードの海でもなく、無限に遠いこの海のどこかに約束されているのだから。

まもなく太陽が海の上に新しい光の道筋を描く時、僕を呼ぶ声に、今日こそ勇気ある答えを返せるのなら。




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お題はこちらのサイト様から頂きました
期間限定様



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ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

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