ドラゴンクエスト7の小説ブログです。
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「キャプテン! あれ、いねえですか、シャークアイさま?」
割れた声とともにドアを開かれ、シャークアイは見入っていた卓上の地図から顔を上げた。ノックを忘れていたが、来た男がボロンゴだと分かるとシャークアイは咎めなかった。
「どうした、ボロンゴ?」
「あのー、コスタールのお偉いさんが船に上がってまさあ。キャプテンと約束してたとかで。」
「ああ」
シャークアイは丸窓から外を見た。今日はコスタールの大臣たちが武器庫の視察に来る予定だった。が、それは昼過ぎ遅く、マール・デ・ドラゴーンの夕刻の出航前と約束していたはずだ。窓の外の光は今がまだ昼前であることをはっきり伝えていた。
「大分早いな。何か言っていたか?」
「いえ、何も。あの、キャプテン、お休み中でしたか?」
ボロンゴは気遣う声で尋ねた。シャークアイが船長室ではなく、そのすぐ奥にある私室のほうにいたからだろう。ここはキャプテンが休憩や睡眠をとったり、ひとりで考え事をする場所なのだ。
「待ってもらいましょうか?」
「いや、構わん。すぐ行くと伝えてくれ。」
シャークアイはコスタール近海の地図に戦歴を書き入れていたところだった。大臣たちが来る前に仕上げて城に戻る彼らに託せば、夜、船が港に帰るまでに王がそれを確認しておけると思ったのだが。
仕方ない、
地図は今夜直接王に渡そう。
時間が足りなければ、明日、委細を相談すればいい。
シャークアイは気を取り直し、地図を畳んで棚に戻した。
「すみません、伝言はしてえんですけど、おれ、カデル様にも呼ばれてるんですが…」
「そうか。じゃあいいよ、このまま行くから。ありがとう、ボロンゴ。一緒に出よう」
シャークアイはマントを手に取り、ボロンゴに続いてドアをくぐろうとしたが、間近にボロンゴの顔を見てふと足をとめた。
「…お前、何だか顔色が悪いな。どうかしたのか。」
「え?」
ボロンゴは間の抜けた顔をしてシャークアイを見た。
シャークアイはその顎を手に取って、正面からじっと観察した。
「どこか具合が悪いか。」
「いえ、全然。いつも通りでさ。」
「朝飯は食ったか?」
「食いましたよ。でも、今日の昼はまだでさ。腹減ってるから、そのせいじゃねえですか」
「そうか。」
シャークアイはボロンゴの顎から手を放すと、血の気の薄い頬を、手のひらで軽く叩いてやった。ボロンゴはシャークアイに気にかけられたことが嬉しいのか、浮いた足取りで後ろに従った。シャークアイが肩越しにちらりと振り返ると、本人に自覚はないようだが、やはり疲労しているように見えた。
「そうか。カデルのやつが、お前をこき使っているのだな。」
シャークアイがそう呟くと、ボロンゴは慌てて手を振った。
「そんなこたないです! カデル様のほうがよっぽど働いてんですが。」
ボロンゴは昔からよく働いたが、それは人より多く働くという意味ではなく、同じ仕事をするにも、人より多くの時間がかかるためだった。しかし生来の心根の誠実さ、優しさは誰にも劣らなかった。そのためにシャークアイは彼を深く信頼し、船に出入りする客人の受け入れなど重要な仕事を任せているのだが、カデルもまた彼を気に入って細々した仕事から伝令までをさせ、時には舵を教えようともしていた。昔はそれでもよかったが、コスタールに身を寄せた今、与えられた仕事を次々捌いていくということの出来ぬボロンゴにとっては多忙すぎるのだろう。
船長室のドアの前から甲板を見下ろすと、休んでいる連中はわずかで、武器の手入れをする者、持ち場の具合を確かめる者が目立っていた。コスタールを訪れる前は、誰も彼も生活のため以外にはろくに働かず、残りの時間は遊び暮らしていたものだ。
今のマール・デ・ドラゴーンは近海の魔物を蹴散らし、行き交う船を護衛し、陸の兵たちに海での戦い方を教えていた。今日も明日も、やることはいくらでもある。自由気ままに海をさすらっていた荒くれ者たちの生活はもはやなく、機敏とはおよそ逆の性質のボロンゴがあちらへ、こちらへと休む間もなく船じゅうを走り回っていた。水夫たちは時間を見つけて交互に食事をとるようになり、指示されたわけでもないのに、休みの日以外は酒の量を減らした。
しかし不満を言う者はひとりとしていなかった。かつての暮らしぶりを失った代わりに、水の民は人間のために戦うという大きな目的を持ったのだ。はるかな昔、祖先が精霊から与えられた力を役立てる時が来た。使命を悟ったマール・デ・ドラゴーンには、かつて知らぬ充実感が満ち満ちているようだった。
ボロンゴの顔も、以前に比べてすっかり引き締まってしまった。彼もやはりこの船や他の船員たちと同様、全身の骨に目に見えぬ信念のはがねを添わせたかのような、逞しく迷いない佇まいをしていた。顔立ちは戦士のそれだ。一族はすべて、大いなる水の精霊から遣わされた戦士たちなのだ。
「ボロンゴ、俺も昼飯はまだなんだ。大臣たちが戻られたら一緒に飯にしないか?」
シャークアイがそう言って誘うと、ボロンゴはぱっと表情を明るくして頷いた。
「へえ、じゃあ、急いで仕事すませてきまさあ!」
「いや、俺は当分大臣方のお相手をしているから、そう慌てなくてもいい。」
「じゃ、終わったら舵のとこで総領が出てくるの待ってまさ。」
「そうしてくれ。」
ボロンゴは懐いた犬のようにシャークアイの後を追った。
「総領と飯食うの、久しぶりですなあ!」
「そうだな」
今日の飯、何だろうなあ、と嬉しそうに言うボロンゴの声が聞こえて、シャークアイは微笑した。どんな時も飯の話で元気になる、海の男らしい単純さ、明朗さが好きだ。一族によく見られる、くるくると渦を巻いた短い黒髪に手を伸ばして軽く愛撫してやってから、バルコニーの柵を飛び越えて甲板に降りた。
「キャプテン!」
「シャークアイ様ぁ!」
方々から挨拶が聞こえる中を、シャークアイはあたりの様子を簡単に点検しながら船首のほうへと歩いて行った。帆柱の向こうに、城からやってきた大臣たちが立ち並び、船長の登場を待っていた。
お題はこちらのサイト様から頂きました
http://odai.ninja-x.jp/title/index.html
割れた声とともにドアを開かれ、シャークアイは見入っていた卓上の地図から顔を上げた。ノックを忘れていたが、来た男がボロンゴだと分かるとシャークアイは咎めなかった。
「どうした、ボロンゴ?」
「あのー、コスタールのお偉いさんが船に上がってまさあ。キャプテンと約束してたとかで。」
「ああ」
シャークアイは丸窓から外を見た。今日はコスタールの大臣たちが武器庫の視察に来る予定だった。が、それは昼過ぎ遅く、マール・デ・ドラゴーンの夕刻の出航前と約束していたはずだ。窓の外の光は今がまだ昼前であることをはっきり伝えていた。
「大分早いな。何か言っていたか?」
「いえ、何も。あの、キャプテン、お休み中でしたか?」
ボロンゴは気遣う声で尋ねた。シャークアイが船長室ではなく、そのすぐ奥にある私室のほうにいたからだろう。ここはキャプテンが休憩や睡眠をとったり、ひとりで考え事をする場所なのだ。
「待ってもらいましょうか?」
「いや、構わん。すぐ行くと伝えてくれ。」
シャークアイはコスタール近海の地図に戦歴を書き入れていたところだった。大臣たちが来る前に仕上げて城に戻る彼らに託せば、夜、船が港に帰るまでに王がそれを確認しておけると思ったのだが。
仕方ない、
地図は今夜直接王に渡そう。
時間が足りなければ、明日、委細を相談すればいい。
シャークアイは気を取り直し、地図を畳んで棚に戻した。
「すみません、伝言はしてえんですけど、おれ、カデル様にも呼ばれてるんですが…」
「そうか。じゃあいいよ、このまま行くから。ありがとう、ボロンゴ。一緒に出よう」
シャークアイはマントを手に取り、ボロンゴに続いてドアをくぐろうとしたが、間近にボロンゴの顔を見てふと足をとめた。
「…お前、何だか顔色が悪いな。どうかしたのか。」
「え?」
ボロンゴは間の抜けた顔をしてシャークアイを見た。
シャークアイはその顎を手に取って、正面からじっと観察した。
「どこか具合が悪いか。」
「いえ、全然。いつも通りでさ。」
「朝飯は食ったか?」
「食いましたよ。でも、今日の昼はまだでさ。腹減ってるから、そのせいじゃねえですか」
「そうか。」
シャークアイはボロンゴの顎から手を放すと、血の気の薄い頬を、手のひらで軽く叩いてやった。ボロンゴはシャークアイに気にかけられたことが嬉しいのか、浮いた足取りで後ろに従った。シャークアイが肩越しにちらりと振り返ると、本人に自覚はないようだが、やはり疲労しているように見えた。
「そうか。カデルのやつが、お前をこき使っているのだな。」
シャークアイがそう呟くと、ボロンゴは慌てて手を振った。
「そんなこたないです! カデル様のほうがよっぽど働いてんですが。」
ボロンゴは昔からよく働いたが、それは人より多く働くという意味ではなく、同じ仕事をするにも、人より多くの時間がかかるためだった。しかし生来の心根の誠実さ、優しさは誰にも劣らなかった。そのためにシャークアイは彼を深く信頼し、船に出入りする客人の受け入れなど重要な仕事を任せているのだが、カデルもまた彼を気に入って細々した仕事から伝令までをさせ、時には舵を教えようともしていた。昔はそれでもよかったが、コスタールに身を寄せた今、与えられた仕事を次々捌いていくということの出来ぬボロンゴにとっては多忙すぎるのだろう。
船長室のドアの前から甲板を見下ろすと、休んでいる連中はわずかで、武器の手入れをする者、持ち場の具合を確かめる者が目立っていた。コスタールを訪れる前は、誰も彼も生活のため以外にはろくに働かず、残りの時間は遊び暮らしていたものだ。
今のマール・デ・ドラゴーンは近海の魔物を蹴散らし、行き交う船を護衛し、陸の兵たちに海での戦い方を教えていた。今日も明日も、やることはいくらでもある。自由気ままに海をさすらっていた荒くれ者たちの生活はもはやなく、機敏とはおよそ逆の性質のボロンゴがあちらへ、こちらへと休む間もなく船じゅうを走り回っていた。水夫たちは時間を見つけて交互に食事をとるようになり、指示されたわけでもないのに、休みの日以外は酒の量を減らした。
しかし不満を言う者はひとりとしていなかった。かつての暮らしぶりを失った代わりに、水の民は人間のために戦うという大きな目的を持ったのだ。はるかな昔、祖先が精霊から与えられた力を役立てる時が来た。使命を悟ったマール・デ・ドラゴーンには、かつて知らぬ充実感が満ち満ちているようだった。
ボロンゴの顔も、以前に比べてすっかり引き締まってしまった。彼もやはりこの船や他の船員たちと同様、全身の骨に目に見えぬ信念のはがねを添わせたかのような、逞しく迷いない佇まいをしていた。顔立ちは戦士のそれだ。一族はすべて、大いなる水の精霊から遣わされた戦士たちなのだ。
「ボロンゴ、俺も昼飯はまだなんだ。大臣たちが戻られたら一緒に飯にしないか?」
シャークアイがそう言って誘うと、ボロンゴはぱっと表情を明るくして頷いた。
「へえ、じゃあ、急いで仕事すませてきまさあ!」
「いや、俺は当分大臣方のお相手をしているから、そう慌てなくてもいい。」
「じゃ、終わったら舵のとこで総領が出てくるの待ってまさ。」
「そうしてくれ。」
ボロンゴは懐いた犬のようにシャークアイの後を追った。
「総領と飯食うの、久しぶりですなあ!」
「そうだな」
今日の飯、何だろうなあ、と嬉しそうに言うボロンゴの声が聞こえて、シャークアイは微笑した。どんな時も飯の話で元気になる、海の男らしい単純さ、明朗さが好きだ。一族によく見られる、くるくると渦を巻いた短い黒髪に手を伸ばして軽く愛撫してやってから、バルコニーの柵を飛び越えて甲板に降りた。
「キャプテン!」
「シャークアイ様ぁ!」
方々から挨拶が聞こえる中を、シャークアイはあたりの様子を簡単に点検しながら船首のほうへと歩いて行った。帆柱の向こうに、城からやってきた大臣たちが立ち並び、船長の登場を待っていた。
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HN:
モル元
性別:
女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!
シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。
シャークアイ、かっこいいよね!
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