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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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暮らしはどうだ、と尋ねると、新婚の娘はそのほっそりした身体や優しい顔立ちに似合わぬほど気前の良い笑顔を見せた。明るくて勝気な、海賊の妻らしい表情だとシャークアイは思う。

「夫と両親も、うまくいっていますわ。みな元気で暮らしていますよ。」
「最近亭主の戻りが遅いと女たちに苦情を受けているのだが。」
「まあ。そうなんですか?」
「魔物が増えたからな。夜の見張りの人数も増やしているのだ。」
「あたし結婚したばかりだからこんなものかと思ってましたわ。父は商人ですし。」

娘はおどけるように言って笑った。昼下がりの陽ざしの下で、その生き生きした笑顔は眩しく、船を統べるシャークアイの心を和ませた。

「それならよかった。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとうございます。おかげさまで、毎日楽しく暮らしてますわ。」

シャークアイは娘と別れて船室に戻った。カデルと時間を前後させ、午睡を取るつもりだった。無人の船長室の卓上にはキャプテンの確認を待つ書類が積み上げられている。その束を手に掴んで寝室へと向かい、ベッドに身を投げた。


船内の文書を分けて先に目を通し、残ったものの中から封書を選び出す。裏側の封蝋ばかりが物々しい、開封の必要もないようなものばかりだ。シャークアイはそれらには目もくれず、手紙の山を漁った。

今回はあの封筒がないのか。
そう思った時、ドアがノックされた。

「キャプテン、お休みですかい?」
「ボロンゴか? 暇にしているだけだ、入れ。」
「すみません、一応、急ぎかもしれねえので。」

薄暗い寝室の中から見上げたボロンゴの姿は逆光になりその手元もよく見えなかったが、彼の運んできたものの正体をシャークアイは直感で悟った。今探していた、例の封筒に違いない。

「ああ、ちょうど手紙を御覧でしたか?」
「ろくでもないものばかりさ。見ろ、この数。」
「最近多いですなあ。キャプテン、お忙しいでしょうに。」
「いや、下らなくてまともに読みもしないからそう手間もない。面倒なだけだ。」
「へ? じゃあこいつも…」
「いや、お前の手にあるものはそうではないようだ。」

ボロンゴはシャークアイの手厳しい言葉を聞いて封書を差し出すのをためらいかけたが、シャークアイのほうから手が伸ばされ、手紙は優しく奪われるように主人の手に移った。蝋で押された紋章を明るいほうに向けて確かめる。

「思ったとおりだ。」
「なにがです?」
「差出人。」

ここ数か月に渡り、延々と熱心に手紙を寄越してくる、同じ差出人だ。マール・デ・ドラゴーンの寄港先など気まぐれなのに、まさか、あらゆる港に手紙を託してでもいるのだろうか。シャークアイは執拗な手紙攻撃にうんざりしながら、しかし最近では、よその船とすれ違うたび、どこかの港に投錨するたびに、きっとまた届くのではないかと内心で期待するようになっていた。

「すまんが、ナイフを取ってくれ、ボロンゴ。」
「へえ。こいつでいいですかい?」

シャークアイは小さなナイフを受け取ると、あおむけに寝転がったまま封を切った。ボロンゴが気を利かせてカーテンを開ける。光が差し込み、シャークアイは少し目を細めた。封筒と同じ紙質の便箋に、のびの良い墨が使われている。流麗な筆跡。麗々しいサイン、そして国璽。

「おいボロンゴ。これを見ろ。」

シャークアイは目の前にボロンゴを跪かせ、手紙を示した。笑っている、とボロンゴは思ったが、シャークアイ自身は気づいていなかった。

「なんです、随分しゃれた字ですなあ。」
「コスタール国王の親筆らしい。最近同じ内容のものが何通も届く。」
「何通も? コスタールって国から?」
「うむ。見ての通り、われらに救援を求めている。」

シャークアイはそこまで言って身体を起こした。わずかに寝乱れた布の服に黒髪が滑る。

「魔物が暴れるようになり、もはや誰もが海に船を出せる時代ではなくなった。そこでマール・デ・ドラゴーンにうまい話を持ち込み手を組もうとする金持ち連中が増えたのだ。手紙の主はほとんどがそういう連中さ。貴族や王族までいる。だが、結局は己の富と名声を追うものばかりだ。」
「そりゃ、キャプテンが嫌がるわけですな。」
「うむ。しかしコスタールはそうではないのだ。どうもそうではない。その手紙をよく読んでみろ。」

ボロンゴは文面を目で追った。コスタール王の言葉は丁寧で切実ではあったが、シャークアイの言うような「うまい話」というのとは趣が違った。シャークアイも身体を乗り出し、ボロンゴの手に握られた手紙を一緒に覗きこんだ。

「どうだ、面白いくらいわれらに見返りがないだろう?」
「必要な金は出来る限り出すと書いてあるようですが。」
「こんなもので大海賊マール・デ・ドラゴーンが動くと思うか? 笑わせるよ。」

シャークアイはそう言って、本当に少し笑った。侮蔑的な笑い方ではなく、嬉しそうな顔で。

「コスタールはずいぶん困っているようですな。」
「うん。海の魔物が多くなって船を出せずにいるとも書かれている。」
「大変なことで。」

ボロンゴが他人事のように呟いたのも無理はなかった。マール・デ・ドラゴーンは海上を移動する一国であり、どこにも属さず、どことも手を組まず、船の掟以外には何にも縛られず、他国のことには干渉しないのが常だからだ。

「ボロンゴ。お前に相談がある。」

きらりと光る両目が間近にボロンゴを見た。突然のことにボロンゴはたじろぎ、声を上ずらせた。

「だっ、大事な相談なら長老様やカデル様にして下せえよ! あっしはただの船員でさぁ!」
「いいから聞け。……われらは気ままに海を彷徨うだけで今まで満足してきた。民の暮らしが守られればよいと、オレもそう思って来たのだ。」
「へえ、それはもう、シャークアイ様が立派に引っ張って下さってるおかげで、あっしらは安泰でさ。」
「それもお前たちの助けがなければ叶わぬことだ。オレたちは自分たちの力で船を無事に保っているのだ。だが、船の外はどうだ? 人々の暮らしは魔物どもに脅かされている。コスタールが言うようにな。そして苦しんでいるのは、コスタール一国に限ったことではない。」

シャークアイの言う通り、海を行くマール・デ・ドラゴーンこそ難渋しないだけで、行く先々の世界各地で魔物は増え、人々は困惑していた。

「コスタールの王はともに手を携え魔物どもと戦おうとオレに訴えている。目先の利益を求めるのではない。人々のため、人間の手で平穏な世界を取り戻そうと言うのだ。」
「じゃあ、シャークアイ様。コスタールの話に乗るんですか?」
「どうだかな。しかし、われら水の一族も大いなる目的のために動くべき時なのかも知れん。最近オレはそんなことを考えている。」

シャークアイは言葉を濁したが、双眸にはもう決意が宿っているように見えた。おそらくコスタールから最後の一押しが来たら主人は動くのではないかとボロンゴは思った。

「どっかの国と一緒になるなんて、何だか夢みたいな話でさ。」
「危険な賭けかも知れん。船の暮らしにとっては今のままのほうがきっと安全だろう。」
「ボロンゴには難しいこたぁわかりませんや。けど、キャプテンが決めたことなら、どこまでもついていきまさあ! 一族の誰だってそうですぜ!」

ボロンゴがそう言うと、シャークアイはほっとしたような、照れたような微笑を浮かべた。

「そうか。」

不意に窓の外から、わあっ、と海賊たちの声が立った。賑やかな、お祭り騒ぎのような声。きっとまたモンスターが出て、仲間たちが退治したのだろうと室内の二人は思った。魔物との戦いは、最近では食事と同じくらい当たり前の風景になった。マール・デ・ドラゴーンの男たちは強く、船の装備は固く、怪我の心配さえほとんどないくらいだ。戦闘の多いことは、むしろ好戦的な連中には好かれる事態だった。しかし魔物たちが数を増やしている今の時代の大きなうねりから見れば、こうして世界をまたにかけ、いずこにも属さず、なにも憂えず、自由気ままに波に身を委ねるあり方も終わりを迎えるべきなのかもしれなかった。シャーク アイの手元に届いた幾通もの手紙が、その時を告げていた。

「ボロンゴ、ありがとう。少し昼寝するよ。その手紙は片づけてくれ。」
「へ? いいので?」
「いいさ、読んだ、何度もな。他のは、読まなくていい。」




――――――――――

お題はこちらのサイト様から頂きました
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「ん?」

物影にぴくりと動く何かを見つけて、カデルは足を止めた。

「いま、何か動かなかったか?」

まさか、魔物だろうか? マール・デ・ドラゴーンは今日の戦闘を終え、船員たちは皆休憩に入ったところだ。点呼の時、異常がないか確認したはずだが、見落としがあったのかもしれない。

カデルは腰のナイフに手を添え、そろりそろりと用心深く近づいていった。樽の陰に、確かに何かが隠れている。猫ではないことは、半透明の、つるりとした太い紐のようなものがはみ出していることから明らかだった。カデルは思い切って樽を蹴飛ばして叫んだ。

「なにものだっ!」
「ピッピキーッ!!」
「!! なんだ…っ、スライムじゃないか!」

カデルは肩すかしを食らい、ナイフから手を離した。一般の船員ならともかく、海賊のカデルにとっては、スライムなど敵ではない。目の前にはいかにも弱そうな小さなスライムが、ぷるぷると震えていた。

「なんだよ、びびらせやがってっ! このマール・デ・ドラゴーンでコソコソしていいこたぁねえぞ!!」
「ピキッ。ぼっ、ぼくはスライムじゃないよ、くらげだよっ!」
「どっちでも同じだっ!」
「そっ、それに、悪いくらげじゃないよ!!」
「ばかやろう、悪くねえモンスターがいるかってんだ!」

カデルはスライムの角をぎゅむっと掴んで吊り上げた。よく見ると確かにスライムではないようだ。色が薄いし、たくさんの触手が生えていた。さっき樽の陰からはみ出していた半透明の紐の正体だ。欠けた触手の先から、魔物の青い体液が、ぽたっ、と船の床にこぼれた。

「まったく、こんな雑魚が、どうやって入りやがったんだか。」
「いたいよう、はなしてよう。」
「カデル? どうかしたの?」

背後から可愛らしい声をかけられ、カデルはびっくりして振り返った。こともあろうにキャプテン・シャークアイの妻アニエスが、騒ぎを聞きつけ、ドアの近くに立っていた。

「奥様! 近づいちゃいけません!」
「あら、スライムなの!?」
「くらげだそうで。しかし、小さくても魔物は魔物ですよ。」
「ぼっ、ぼくは悪いくらげじゃないよう! しびしびもしないよう!」
「まあ、そうなの!?」

アニエスはカデルの隣まで来て、くらげを覗きこんだ。

「アニエス様! 危ないですって!」
「でも…カデル、この子、怪我してるわ。」
「ぼく、おっきなサメのせなかにくっついてたんだよう。そしたら人間たちと戦いになって…。」
「あー、そういや、見たような気がするなあ。」

カデルは今日の戦闘を思い出した。確かに魔物のむれの中から、小さな何かが飛び出すのを見た覚えがある。その時は水飛沫かとも思ったのだが、このくらげだったのだ。

「巻き込まれて、怪我してしまったのね。手当てしてあげましょう。」
「触ってはいけません。するならカデルが代わりにしますから。」
「いいのよカデル。悪い子じゃないんだわ。大丈夫よ、ね?」

アニエスはくらげに向かってそっと手を伸ばした。くらげはぷるぷる震えながら、優しいその腕の中に収まった。

「ピキィ…水が欲しいよう……」
「よしよし、手当てをしたら、すぐに海に戻してあげましょう。」
「さいきん、海が、怖いよう……」

アニエスは黙ってくらげの頭を撫でた。カデルもくらげの泣き言には内心どきりとして言葉を失った。アニエスを見ると、やはり少し傷ついたような顔をしていた。

「…ごめんね、あなたみたいな、優しいくらげちゃんもいるのにね。」

アニエスは大事そうにくらげを抱いた。怪我をしている場所からくらげの体液がこぼれ、きれいなアニエスの服に青いシミをつけてしまう。

「ごめんね。くらげちゃん。ごめんね。」
「ピキー……」
「…あーあ、しょうがねえなあ、アニエス様は! 行きましょうや、医者のところまでお供しまさあ。」
「ありがとう、カデル!」
「けどなあ、内緒にして下さいよ。でないと、おれがキャプテンに怒られまさ。」

カデルはあたりの様子をうかがって、人けのないことを確かめた。アニエスの手を取る代わりに、くらげの手を一本掴んで、ドアの外へと導く。アニエスに抱かれて安心したのだろう、その触手はもう、出会った時のように震えてはいなかった。




――――――――――
コスタール海軍時代のお話でした。

人魚時代のアニエスがくらげと仲良くしているお話
→「涙のゆくえを君は知っていますか?


お題はこちらのサイト様から頂きました
http://odai.ninja-x.jp/title/index.html


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プロフィール
HN:
モル元
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女性
自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。

シャークアイ、かっこいいよね!
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