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ドラゴンクエスト7の小説ブログです。 9プレイ日記もあります。
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水平線に灼熱の溶岩のような陽光が溢れ出た瞬間、海賊たちは一斉に歓声を上げた。甲板の方々で抱擁や挨拶や口づけが交わされ、楽隊が弦の張りを確かめる音を鳴らし始め、やがて沢山の料理が船の厨房から続々運び出された。打楽器の軽快なリズムに、なみなみと注がれたグラスをぶつけ合う賑やかな音が混じる。

「新年おめでとうございます、アルス様!!」
「マリベル様! マリベル様によい年となりますよう!」

海賊たちはアルスやマリベルのもとにも駆け寄り、次々に握手を求めた。甲板の上に満ちたまばゆい黄金の陽光はすぐに早朝の白い光になり、澄んだ水のような青をした空の下、人々は四重の円の形に並んだ。やがてワルツが始まり、一人の若い男が、「踊ろう、兄弟たち!」と声を上げ、それに答える明るい声があちらこちらから聞こえた。

「これがマール・デ・ドラゴーンの新年なのね。すっごく賑やかなのね」

無意識にアルスの袖をつかんだまま、マリベルはうきうきした声で叫んだ。ボロンゴがやってきて、アルスたちの手を取った。

「アルス様、マリベル様、踊りましょうや。今日この日、船にいる人は皆家族ですよ!」
「ええと、僕…」

アルスは困ってボロンゴの顔を見た。その背中の向こうでは人々が軽やかなステップを踏んでいた。

「僕、その、踊れなくて…」
「はは、そんなの、あっしも踊れませんや! ほら、内側の輪に入ればいいんでさ。うまく踊っているのは外側の輪だけで。」

言われてよく見てみると、大きな対の輪の中にもう一組の組み合わせがあって、同じ音楽に合わせていても、様子は異なっていた。外側の輪では向かい合った人々が手を取り合い、寄っては離れ、腕のアーチを潜り、そして次の相手に移っていたが、内側の連中は決まったステップを踏むわけでもなく、ただ次から次に抱擁や口づけを交わして、あとはくるくると楽しそうに回っているだけだった。

「なあんだ、中のほうでは踊っていないのね! あたしは踊りたいわ!」
「それがいいでしょう、マリベル様ならすぐ覚えられますよ。」
「当然よ! アルス、あんたはとろいから、最初は内側の輪にいなさいよ。心配しなくたって、あたしが先に覚えて、あんたに教えてあげるわよ。」

マリベルはさっさと外側の輪に混じり、向かい合った若い水夫に、見よう見まねで綺麗なお辞儀をしていた。恭しく差し出された手に手を重ねる仕草は、もう踊り方の全部をすっかり知っているかのようだった。マリベルは本当に自信家だなあ、と思っていると、ボロンゴがアルスの手を引いた。

「さ、アルス様はあっしらと中で楽しみましょうや!」



人の群をすり抜けて輪の中に混じるとすぐ、目の前の誰かの腕に荒っぽく抱きしめられ、潮に割れた声で、「新年おめでとう!」と叫ばれた。

「あ、新年、おめでとうございます。」

アルスは海賊の腕の中で答えた。そのたどたどしさに海賊は笑顔をこぼした。彼らの分厚い胸や肩は、子供の頃自分を抱きしめてくれたフィッシュベルの父ボルカノや他の漁師たちとあまり変わらないとアルスは感じた。同じ海に生きる者の特徴なのだろう。

今日この日、船にいる人は皆家族ですよ――

日頃の海賊たちはアルスをあくまで客人として扱い、どんなに気さくに話をしても、肩にも背にも触れようとしなかった。長く共に船旅をして、時には共に戦いもする。しかしどれほど打ち解けても、同じ年頃かそれ以下の少年たちはともかく、大人たちからは敬称なしに呼ばれることはなかった。「アルス様」、と呼ばれるたびに落ち着かない気がした。訪れた先の国や都市でそう呼ばれることはたびたびあったけれど、マール・デ・ドラゴーンの海賊たちとは、同じ船の上で生活をともにしているはずなのに。総領シャークアイが範を示しているのだ。この船で最も地位の高いシャークアイが、ずっと年下の自分に対してどういうわけか躊躇なく跪くせいで、彼に倣う海賊たちは礼儀正しすぎて、それはありがたいけれど、さみしくもあった。

見れば世界各地からの旅客も今日は踊りの輪に加わっていた。いつも外に開かれた雰囲気のマール・デ・ドラゴーンでも、民と、そうでない者の境界はおのずと存在した。ボロンゴが言ったとおり今日ばかりは特別なのだ。アルスは名も知らぬ相手の背中をぎゅっと抱きしめた。次に手を取った相手は小さな子供で、アルスはその前の海賊が子供に対してしていたのを真似て、両手を掴んで身体ごとくるくると回してやった。子供の嬉しそうな笑い声を聞いていると、兄にでもなった気分だ。音楽が一区切りついて次の曲が始まると、輪は回転の向きを逆にしてまた回り始める。頭上を見上げると、壮観なダンスの全体をバルコニーから眺めている人たちも大勢いた。


その時、外側の輪から中に割り込んでくる人影がちらりと見えた。視界に入った足元から身体へと目線を移すと、シャークアイだった。彼はひどく目立つはずなのに大勢の海賊たちに溶け込んでいた。周囲の海賊たちの歓声に迎えられ、付近にいた何人かがこぞって彼に抱きついたので、踊りの輪はいっとき乱れた。外の輪で踊っているところを見ておけばよかったな、とアルスは思った。マリベルは彼と踊ったのだろうか。

シャークアイはアルスに向かい合う列の中に混じり、船員たちの求めに応じて気軽に肩を抱き合っては日に灼けた彼らの背中を叩き、子供をかかえ上げて回してやっていた。

――今日この日、船にいる人は皆家族ですよ。

海賊の中には小柄なアルスを子供と判定する者も少なくなく、アルスは子供たちがそうされるように何度も大人の腕に抱き上げられた。急に体重を失うスリル、くすぐったい気持ち、空をめぐる視界の新鮮さ。脇を支えられて高く持ち上げられると、賑わう人々の親愛の輪を上から見ることが出来た。

今日この日マール・デ・ドラゴーンにいる者全てが家族なら、今日だけは彼の大きな手が自分にも与えられるのだろうか。今、自分と同じくらい背の低い、知らない子供の頭を撫でているあの手が。

見ればシャークアイはアルスの、もう数人先に迫っていた。まだ音楽が変わらなければいい、とアルスは思った。








新年おめでとうございます!
2010年1月 モル元

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自己紹介:
ゲーム大好きモル元です。

9のプレイも一段落ついて、そろそろ7小説に戻ろうか、と書き始めた途端、シャークアイの知名度や活動人口の少なさを再び思い知って打ちひしがれている今日この頃です。皆さんにシャークアイのことを思い出してもらったり、好きになってもらうために、めげずに頑張って書いていきます!

シャークアイ関連の雑談やコメントなど随時募集中。お気軽に話しかけてやって下さい。世の中にシャークアイの作品が増えるといいなと思って活動しています。

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